認知症予防あれこれ

質問: 

テレビで学習療法が認知症予防に有効だと言っていましたが、学習療法について教えて下さい。(60代女性)

回答:
学習療法は、音読と計算を中心とする教材を、学習者と指導者がコミュニケーションをとりながら学習することで、学習者の認知機能、コミュニケーション機能、身辺自立機能などの前頭前野機能の維持・改善を図ろうとする学習法です。

認知症高齢者のケアのみならず、健常者の認知症予防にも有効であることを、東北大学教授で医学博士の川島隆太氏などが提唱し、子どもたちの学習塾で有名なくもん学習センターが全国の福祉施設などに展開中です。

現在主流の認知症ケアは、従来のように薬物に頼るのではなく、音楽療法・芸術療法などの非薬物療法が主流ですが、これらは残念ながら、「本当に認知症の改善に有効だ」という根拠となるデータがありませんでした。

これに対して学習療法は、川島教授らの研究によって、「計算や音読を毎日行うことで、左右脳の前頭前野が活性化し、それが効果的な刺激となって低下しつつある脳機能を向上させることができる」という検証がなされ、ここ数年で急速に普及しつつあります。

『二十四の瞳』では、定期的に『生涯青春アカデミー』を開校していますが、この昨年からは学習療法を取り入れて、国語・算数・理科・社会に体育・家庭科など、小学校の授業形式の講座も運営しており、受講生の皆さんにご好評をいただいております。

人間ドックはがんのもと

質問: 

家内は年2回、わざわざ隣の県まで乳がん検診に行っているのですが、地元でやっている集団検診では効果がないものでしょうか?(60代男性)

回答:
なかなか深い質問です。そうすることで奥様が日々心配なく生活できるというのであれば意味はあるでしょう。

実は、既に米国では乳がん検診の非有効性が定説となっています。日本でも、集団検診の有効性について否定した公的レポートが存在します。公衆衛生審議会が、「子宮体がん、肺がん、乳がんは、現在の集団検診では実施してもなくても、発見率は変わらない」と報告していますし、過去の新聞記事にも、「大腸がん検診の有効性評価を行う厚生労働省の研究班は、集団検診での内視鏡・X線検査や直腸指診に否定的な見解を示した。自治体が実施する集団検診や職場検診などは奨められない」(平成20年3月23日の朝日新聞)とあります。

しかしながら、自治体や職場での集団検診には今でも必ずX線検査があるのはどうしたことでしょうか。ズバリ言います。健診や検診に多額の税金が使われ、それに伴い病人が増加して国民医療費は35兆円を超えました。このお金の行方を冷静に考えれば、医者に勧められるがままに聞きわけの良い患者にならないことです。

もちろん、適切なタイミングで適切な検査を受けることで危機を回避したケースもありますが、これからは、明らかな変調を感じたら検査を受ける、安心感を得るために年1回、誕生月に検査を受けるなど、自分なりにルールを設けることをお奨めします。

『健康管理は自己責任で』という自覚を持つべき時代になったと言えるでしょう。ちなみに、医者やその家族たちは、意外と検診を受けていないものですよ・・・。

 

出前一丁、訪問診療

質問:
ドラマ『渡る世間は鬼ばかり』で訪問診療という言葉を耳にしました。現在、80歳の母に付き添って週2回の通院をしています。仕事をしていることもあり、かなりの負担になっています。できれば定期的に往診してもらえると助かるのですが。(50代女性) 


回答:
訪問診療または在宅医療とは、何かしらの事情で通院が困難な患者に対して医師・歯科医を総括責任者として、計画的・医学的管理のもとに介護体制を整え、看護師、薬剤師、理学・作業療法士、介護福祉士、ケアマネジャー、ヘルパー等が行うチーム医療です。
 
往診が患者の求めに応じて行われるのに対して、訪問診療は予め計画した日時に定期的・継続的に医師等が患者宅を訪問するもので、俗に「見守り医療」とも呼ばれています。

医師が通院困難と判断した場合に受けられるサービスで、主なケースとしては、①病院側の運営上の理由で自宅療養に切り替わらざるを得ない。②経済的な事情等で入院ができない。③病院で加療していたが、本人又は家族の強い希望で自宅に戻りたい。(がんの末期状態等)④老衰等、経過の長い疾患で、入院までは至らないが外出も困難。
 
また、患者側からすると、薬まで届けてもらえたり、費用面でも通院した場合と比べて殆ど変わらない(交通費を別途請求される場合がある)というメリットもあります。

しかし、訪問診療を提供する医療機関がまだまだ少ないという事情があるのです。最近では往診ですらなかなかしてもらえないのが実情です。自分が生活する地域で、訪問診療をしてくれる医療機関はどこなのか。地域の保健所や医師会から情報入手して、予め備えておきたいものです。かかりつけの医療機関で尋ねてみるのもいいでしょう。もちろん、そうした手間をかける余裕もないということでしたら、遠慮せずに『二十四の瞳』にご連絡ください。当該地域で訪問診療を手がけているドクターをお探しします。 

薬の多さにびっくり

質問: 

高血圧と頭痛で通院して1年以上になります。通院するうちに薬が増え、現在は8種類にもなります。
息子から「副作用が出るからやめておけ」と叱られるのですが、先生に尋ねることもできず悩んでいます。(70代・女性)

回答:
相談者は、血圧を下げる利尿剤の他、鎮痛剤、睡眠剤、眩暈薬。更に、副作用予防としてカリウム剤、痛風薬、胃薬にビタミン剤・・・といった具合に、細かな症状毎に薬を付け足されてきたようです。
根本の症状さえ抑えればいいものを、正直驚きました。さて、薬剤師からのアドバイスです。


★日本の医師は、臨床薬理学を無視してガンガン薬を処方する嫌いがある。米国では3剤までに抑えるのが原則。相談者の場合、米国なら2剤で済むと考えられる。

★高齢者の場合、各臓器の機能が低下しているため、薬の分解速度が遅い。よって、何種類もの薬を一日に複数回飲めば、体内で薬同士の相乗作用が生じ、非常に危険である。
 
私の父の主治医であった、全日本病院協会副会長の天本宏氏は言っている。「薬は飲まないに越したことはない。医師も患者さんも『医療には限界がある』と認識すべき。

健康寿命を決める因子は、食事・運動等の生活習慣が50%、住まいや人間関係等の環境が20%、持って生まれた遺伝子が20%。薬を含めた医療の影響は僅か10%に過ぎない」と。

 
薬を出す場合、医師はキッチリと説明する。不安ならば患者もしっかり質問する。いま、そんな関係が求められているとつくづく感じる。
 

施設パンフの美辞麗句と羊頭狗肉

質問:
老人施設に入所している母の様子がおかしいと深夜に連絡が入りました。その施設は病院と連携しているから安心と思っていたのに、結局私が施設まで出向き、タクシーで救急病院に付き添って行きました。後日、施設長に確認したところ、提携病院は夜間対応が困難で致し方なかったとのこと。何故か釈然としないのですが。(60代・女性)
 
回答:
それは大変でしたね。大事に至らなかったことをお祈りします。
さて、今回と同様の相談は、全国的にも非常に多いのです。

ズバリ、老人施設の「医療サポート」を巡るトラブルの原因は、医療機関との『連携』とか『提携』という言葉の定義にあるのです。パンフレットや事前説明の場では、「医療機関と連携しているから安心」という話が飛び交います。が、その実態は・・・。

 
つまり、施設側が説明する「連携」と、それによって入居者側が描くイメージにはかなりのギャッブがあるということです。一般に入居者側は、「休日や夜間緊急時に何かあっても、病院と連携しているから大丈夫」であろうと、ある意味、非常に都合よく考えがちです。ですから、いざその時になって、施設側が期待通りに動いてくれないと、感情的になって訴訟にまで発展してしまったりするのです。
 
対応策としては、入居決定前に、施設側の言う「連携」の定義をしっかりと確認すること。施設側の誰が、どこまで対応してくれるのか。連携病院は、いつ、誰が、どこまでのことをやってくれるのか。消費者保護が進んできたとはいえ、まだまだ私たちの方で、未然にトラブルを防ぐという意識を持つ必要があるというのが実際のところです。
 

突然の退院勧告

質問
75歳の母が、昨年末に梯子から落ちて右大腿部を骨折し、入院しています。入院先の病院から2日後に退院だと言われたものの、本人のみならずご家族も自宅に戻すにはまだまた不安です。あとしばらく病院で療養させたいと思うのですが・・・。


回答
私どもの相談案件トップ3に入るテーマです。そもそも入院した時点で、クリニカルパス(入院中の療養計画)に退院時期の目安が盛り込まれていないこと自体、その病医院の品質を物語っていますが、実際には場当たり的な入退院が当たり前になっている病医院がかなりあります。退院を告げられた際に、まだ不安を感じるようであれば、まずは次の3点をきちんと伝えることが必要です。
 
①本人またはご家族が抱いている不安 
 ②その上で退院時期の再調整依頼 
 ③転院先医療機関の紹介依頼
 
こうした患者さんからの相談や要望に対応する部署として、病医院の中には地域連携部門というのが存在します。組織の名称としては「地域連携室」が一般的でしょうか。また、規模の小さい病医院の場合には、MSW(メディカル・ソーシャルワーカー)なる専門職がこれに代わります。

いずれにせよ、『連携』というのがキーワードで、患者さんの退院や転院に係る不安を軽減したり、療養効果を上げたりするために、連携する他の医療機関や介護事業者、さらにはさまざまな生活支援事業者(配食、薬、リフォーム、タクシー等)などとのチームプレーが役割になります。

 
ですから、仮に病院側の都合で退院勧告するのであれば、転院先の紹介と申し送りをキチンとやって患者さんやご家族の不安を取り除いてあげるのが本来の連携であるはずです。

 
 患者さん本人やご家族は、治療環境が変わることに対していろいろな不安を抱きます。この不安を低減するために、退院元病院と転院先病院の然るべき担当者たちが患者さんの情報を共有し、今後の治療や介護の方針や治療内容、考慮点や生活上の注意事項などについて患者さんやご家族同席の下で協議・確認をする。

自宅療養するのであれば、家族による看護・介護の留意点、想定されるリスクとその対応についてきちんと説明する。さらに、不自由のない生活を送るために必要または有効と思われるサービスを紹介する。こういうことが本来の『連携』であるはずです。

 
しかしながら、この本質的な部分がすっかり忘れ去られている現状があちらこちらの病医院で見られるのです。「うちは連携先がたくさんあるから安心ですよ」と言っておきながら、いざとなると「転院先は患者さんのほうで探してもらうことになっていますので」とホカるのであれば、金輪際、『連携』という言葉は使って欲しくありません。
 
私どもに寄せられる相談の多くが、この『連携』という言葉の曖昧さや両者間(患者側と病医院側)の意識ギャップに起因するものです。
 
①病院から(患者さんやご家族にとっては)唐突に退院を迫られ、自宅での受け入れが心もとない家族は自ら転院先を探したり、折衝したりしなければならない。

⇒ 各病医院の地域連携部門は、対外的なチャネル拡充活動はそこそこやっているかもしれないが、患者側の意向を汲み取りながら退院後の具体的なサービス提供体制を確保することについては関心が希薄であると言わざるを得ない。

 
②訪問診療を受けている患家が、休日および夜間緊急時の連携先と(主治医から)教えられた病院に電話すると、当直スタッフから「はぁ?」という対応をされた挙句、一から事情を説明しなければならない。

⇒ 主治医に対して、特に高齢者は気を遣って言いたいことを我慢する傾向があるから表面化しないが、こんなのハッキリ言って詐欺です。
 

③「医療機関と連携しているから安心」と謳われている高齢者施設の入居者が、いざ夜間にナースコールを押すと、夜勤スタッフが救急車を呼んでくれるだけで結局は家族が夜中に呼び出される。

⇒ これは双方に問題があるのだが、一般的には弱い立場にある利用者側に対して、自施設の医療機関との連携内容について事前にしっかりと説明し、理解してもらえるよう努めるのが本当のところであろう。

 
誤解を恐れずに言うならば、世の中の地域連携には偽物が多いと思います。今年からは、地域にひとつでも多く『真の連携』が構築・実践されることを望んで止みません。そして、『真の連携』を謳う以上は、是非とも以下の3要素を満たした上で“連携”という言葉を口にして欲しいものです。

(1)連携先の確保
自院の守備範囲外の機能やサービスを提供してくれる、可能な限り多くの病医院、介護事業者、生活支援事業者とパートナーシップを構築する。

(2)責任所在の明確化
連携に係る責任部署・責任者を明確にし、そのミッションを理解させる。多くの場合、地域連携室やMSWがこれに当たるのだろうが、医療と介護の垣根が無意味となった今、対外的に連携網を拡充していくためには、社会福祉士という国家資格者が適任ではないか。

(3)連携プロトコルの設計
患者さんを引き渡す側と受け入れる側との手続きやプロセスをマニュアル化することが不可欠だ。引渡し後のフォローアップや病態急変時のオペレーションは是非とも盛り込んで欲しい。特に、退院時カンファレンスには、受け入れ側からも然るべき担当者(看護師&地域連携担当責任者がベスト)を参画させることが肝であろう。

これだけは知っておきたい、患者に対する医者の義務

 患者と医者。両者にそれぞれ、もう一度、確認しておきます。まず、お医者様に伝えたい。どうか診断結果は書類にして渡してあげてください。まず、患者さんがそのままそこで治療を受けるのであれば、治療方針や見通し、主治医の名前、手術の場合には執刀医の名前、当該手術についての経験や成功率について書いてあげて下さい。

 
病気を抱えて動転している人間が、医師の説明を口頭で聞いてキチンと消化できるはずありません。あとで冷静になってから知り合いの医師に相談したくても、素人があやふやな記憶だけを頼りに説明しても、的確な助言が得られないでしょう?ましてや大きな手術が必要だというのであればなおさらです。大きな決断を要するときこそ、第二・第三の意見を聞きたいと思うのは当然じゃないですか! 

自分や家族がそういう立場になったときのことを考えてみてください。どうも、そういう相手の立場に寄り添うといった姿勢が足らない医師が多いような気がしてなりません。世間的には偉いとされる医師であるならば、なおさらきめ細かな配慮をして欲しいものです。

 
私たちが受ける相談案件のほとんどが医師とのかかわり方の問題です。世間的には医師の過酷な勤務状況について擁護する論調が増えてきた昨今ではありますが、まだまだ不当な不利益を被っている患者さんが多いことを実感します。相談者に共通するのは、いずれも極めて「良い患者さん」であるということです。どうもわが国の医療現場においては、「良い患者さん」ほど医療提供者にいいようにされてしまう危険性を孕んでいるようです。
 
次に患者さんに知っておいて欲しいこと。その上で、医者にきちんと言うべきことは言う姿勢を持って欲しいのです。それは、医師という職務には遵守すべきさまざまな義務があるということ。逆に言えば、これを果たしていない医師に対して、患者側はもっともっと権利を主張して然るべきだということです。

しかしながら、ほとんどの患者さんは医師に対して従順です。複雑な胸の内とは裏腹に、ついつい医師の言葉に頷いてしまう。そんな呪縛から逃れるために、患者に対して医師が果たさねばならない義務について整理します。

 
ちょっと難しい話になりますが、患者と医師の間には、診療契約という契約関係が成り立っています。とくに契約書は交わしていませんが、そんなこととは無関係に『診療契約』という概念が存在するのです。その契約内容ですが、ズバリ、医師が医療を施すことによって患者の健康を回復することです。ただし、医療行為には少なからず身体や生命の危険が生じる可能性も否定できません。また、治療法が複数ある場合も多々あります。
 
そこで患者側には、いかなる治療を受けるべきか、自分自身で決定する権利が認められているわけです。これを自己決定権といいます。しかしながら、通常、患者は医療についての専門知識を持っていません。で、診療に当たる医師には、専門家として、患者の診療状況を説明する義務が課せられているのです。これを説明義務といいます。
 
例えば手術となれば、患者の身体と生命に強い影響を及ぼすので、患者が自己決定権を行使するのに足るだけの十分な説明義務を果たさなければなりません。具体的には、最高裁判所が判示している次の5項目が説明されなければいけません。
 
①手術前の診断について ②手術の内容について ③手術の危険性について ④他の治療法について ⑤予後(手術後の経過)について
 
なお、この5項目は手術という特別な場合に限ったものではなく、すべての治療行為に妥当するものです。みなさんがいま通っている病医院の医師はどうでしょうか?仮にいまの治療について納得がいかぬままにお金と時間を費やしているようであれば、みなさんの主治医は説明義務を果たしていないことになります。みなさんの出方次第では、その医師や病医院の立場は非常にまずいものとなる可能性があります。
 
こうした点も踏まえて、みなさんにはただ「良い患者さん」になるのではなく、彼らの言動をチェックするような感覚で診察室に入っていただきたいと思います。
 

カルテは誰のもの?

質問
76歳の母が新しくできた別のクリニックへ移ろうとしています。以前に何かの講演会で話を聞いて、なかなか面白い人だなぁと思っていたドクターが、週に一回、そのクリニックで診療していることがわかったらしいのです。そこで、それまで二年ほど通っていたクリニックでカルテのコピーをもらいたいと申し出たのですが、「必要ない」と断られてしまったそうです。どうしたものでしょうか?


回答
いまだにこのような対応をする病医院があるかと思うと、呆れてしまってモノが言えません。実は、カルテ入手についての相談は、過去5年、私どもに寄せられる相談案件のトップです。全国至る所で、カルテの写しをもらいたいのに上手く入手できずに苦慮している方々がたくさんいるということです。なので、このケースの詳細をご紹介したいと思います。
 
まず、カルテの写しをいただきたいと伝えた患者に対して先方から返ってきた言葉です。
 『何の目的で使用されるのですか?』
 『当院の治療について、なにか疑問な点でもおありですか?』
 『当院になにかご不満でも?』
 
予想外の質問に、相談者は自分の言い方に失礼でもあったのかと驚き、思わず正直に別のクリニックを受診しようと考えている旨を伝えたのだそうです。
 
すると・・・、
 
『どこの医療機関にかかろうと、それは患者さんの自由です。ただし、カルテをお渡しするには正当な理由が必要です。カルテなど持っていかなくても、普通は診てもらえますよ。 
問題があれば、そちらの先生から私のほうへ連絡するように言ってください』。
 
私は、一気に血圧が上がっちゃいました。最悪の医療機関ですよ、これは! こういうのを一般社会では詐欺というんです。悪徳商法といっしょですね。カルテとはいったい誰のものなのか、このクリニックは勘違いしています。しかも、現在では患者の求めに応じてカルテを開示する義務が法律で定められています。
 
患者がカルテの写しを要望したら、「なにが疑問だ、不満だ」などと四の五の言わず提供しなければならないのです。それを本当に知らないとしたら、この医者は100年遅れています。また、知っていて提供しないのであればペテン師と言われても仕方ないでしょう。

提供しないだけでなく、「そんなものなくたって診てもらえますよ」と論点をズラしてしまう。そりゃあ日本では、患者は全国どこの病医院でも診てもらうことができます。しかし、そこで一から病状を説明する無駄をなくし、効率的かつ効果的に治療を受けるために、前医(それまでかかっていた医者)からカルテの写しをもらっていきましょう、という話なのです。

 
実は、相談者からの依頼でカルテ等を入手してみると、カルテへの記載内容はかなり稚拙です。文字がよめないものから、ほとんど白紙状態のものまでさまざまです。わが国の医師には、どうやら危機管理意識というものがないようです。逆に言うと、彼らは従順で人のいい患者さんたちのお陰で命拾いをしているように、私なんぞは感じてしまいますねぇ。
 
一方で、この相談者にも苦言を呈したい。なんでそんなところに2年間も通院していたのかと。70年以上も人間をやっていて、人を見る目はないのかと。患者側がこうだから、こういう医者が蔓延るということも言えるのです。
  
しかし、カルテ開示などというテーマが取り沙汰されてから、もう何年になるでしょうか。10年は経ってますよねぇ。だから、医者も医者なら患者も患者だと、私はいつも言ってるんです。どちらもいい加減なんです。もちろん、すべての医者、すべての患者がそうだとは言いません。でも、多いことは確かです。

 

 私も自分の母親を見ていて感じるのは、ある程度の高齢になったらやむを得ないのかなぁとも思います。自分がそれぐらいの年齢になったときに、果たして自分の子ども程の年齢の医者相手に折衝ごとができるだろうかと考えると、やはり医者のほうから歩み寄ってあげるべきなんだと思うのです。
 
とにかく、年末からカルテ絡みの相談が多いんです。なぜに自分自身のカルテをもらうだけなのにそんな大騒ぎになるのか。なんで病医院側は簡単に提供してくれないのか。見られてまずいことでもあるのかと疑ってみたくなります。それほどカルテの写しを入手したいのに円滑にいかないという相談が多々あるのです。なんたることでしょうか。
 
医師は患者に対して、どのような治療を施したのかについて客観的な記録を残しておかねばならないと定められています。この義務を怠ると、50万円以下の罰金を科せられることになります。具体的に記載すべき事項は、以下のとおりです。
 
①診療を受けた者の住所・氏名・年齢・性別 ②病名・主要症状 ③治療方法(処方と処置)④診療年月日 ⑤既往症・原因・経過 ⑥保険者番号 ⑦被保険者証の記号・番号・有効期限 ⑧保険者の名称・所在地 ⑨診療点数
 
ただし、これらを機械的に書けばいいというものではありません。カルテとは、客観的な事柄を記録として残しておくための文書です。よって、誰が見ても読み取れるよう、記載者にしかわからないような略語や略字は使用できないことになっています。また、責任所在を明らかにするため、記載者と記載年月日&時刻も記載しなければなりません。もしもカルテの写しを入手する機会があったら、是非ともこれらの項目が判読しやすく記載されているかどうかをチェックしてみてください。
 
他にも医師には、患者から請求された場合、正当な理由がない限り、診断書を作成して交付する義務があります。正当な理由とは、患者以外から請求されて患者のプライバシーが侵害される恐れがある場合、未告知のがん患者の場合、保険金詐欺等に悪用されることを医師が知った場合、などをいいます。

よくある相談事例

 それでは実際に、私どもに寄せられるよくある相談について見てみよう。5年間の相談活動を通じて、医療や福祉関連を中心に、だいたいシニアからの相談案件というのは限られた範囲に収まるものだということがよくわかった。ここに挙げたのは、例年相談件数が上位にくるものばかりである。

 【医療】
 ●突然退院勧告され、転院先を探さなければならない・・・
 ●通院圏内でリウマチ科がある病医院を教えて欲しい・・・
 ●処方される薬が多すぎて困っているのだが・・・
 ●治療に納得できない。治療費を返金してもらいたい・・・
 ●がんの摘出手術を勧められているのだが・・・
 ●カルテや検査データを円滑に入手する方法を教えて欲しい
 ●通院が困難。往診してくれる医者を探したい・・・
 ●認知症にだけはなりたくない。予防法を学びたい・・・
 ●いまの自分に適した食事や運動のメニューを学びたい・・・

 【介護・福祉】
 ●介護保険を利用したい。手続について教えて欲しい・・・
 ●障害者認定を受けたい。手続について教えて欲しい・・・
 ●現在利用している介護事業者を変えたいのだが・・・
 ●予算内で入居できる高齢者施設を探して欲しい・・・
 ●認知症の父のこれからについて相談に乗って欲しい  
 ●遠距離で独居で暮らす母の緊急時対応を考えたい・・・ 

【お金・法律・葬儀】
 ●悪徳商法に引っかかってしまった。さぁ、どうしたら・・・
 ●カード会社から身に覚えのない請求書が送られてきて・・・
 ●配偶者が亡くなった。さて、相続の手続はどうすれば・・・
 ●気軽に相談できる弁護士を紹介して欲しい・・・
 ●葬儀に無駄な費用をかけたくない。極力安く済ませるには?
 
 いかがだろうか。みなさんも思い当たることがあるのではないかと思う。最近の傾向としては、「かかりつけの病医院への疑問を抱いての相談」、「お金をかけない葬儀の段取り」、「最低予算での施設探し」が圧倒的に多い。

 『二十四の瞳』の活動趣旨は、納得がいかないままにお金と時間を費やしている、医療・介護・葬儀の利用者の権利を徹底的に擁護することである。相談者の立場で病医院や事業者との折衝に当たり、不当な不利益を被らずに済むようサポートしているのである。

 
 お子さんと離れて暮らしている高齢者世帯では、暮らしの中で困りごとが生じてもついつい我慢してしまい、結果的に大きな問題になってしまうことが多々あるもの。私たちはそんな不安や心配を低減すべく、「いつでも・なんでも・気軽に相談できる」ホットラインを提供している。

 みなさんからの多岐にわたる相談に対して、最初の段階で、極力、解決の糸口や方向性を提示できるよう、地域情報や医療福祉分野に詳しい社会福祉士という国家資格者を第一次窓口として確保。専門知識に加えて、高齢者とのコミュニケーションについても教育を受けた人材が対応させていただくため、ご家族に相談する(グチる)ように、遠慮せず気軽に相談していただけると自負している。 

こんなイヤな思い、したことないですか?

 さてここからは、私どもに寄せられるさまざまな相談事例をご紹介していきたい。まずはじめに、みなさんのまわりでこんな話を見聞きしたことがないだろうか・・・。
★もう何年も通院しているのに、症状が一向に改善されない・・・

★倒れた夫を救急病院に連れて行ったら、当直の医師の専門外と言われ、他へ行ってくれと受入 れ   
拒否された。救急車を呼んでも、乗ってからが大変。どこの病院にも受け入れてもらえず、散々たらい回しにされて・・・

★仕事中に梯子から転落して骨折。入院一週間後に突然退院を求められ、自宅療養の不安を訴えると、「心配ならそちらで転院先を探すように」と突き放された。

★医師会に聞いても保健所に聞いても、どこの診療所なら往診してもらえるのかがわからない

★末期がんを宣告された父。本人や家族の同意もないままに三度も手術された挙句、苦痛に耐えながら息を引きとった。

★「カルテと検査データをいただけませんか?」と申し出たところ、医師の表情が強張り、「私が信用できませんか?」と言い放たれ、会話を打ち切られた・・・

★「最後の最期まで安心して暮らせる終の棲家」に要介護五の母親を入れて半年、施設側から、重度の認知症には対応困難として退去を求められた。

★母を入れた施設では、「連携病院があるので夜間休日の緊急時にも安心」と謳いながら、実際には散々待たされた挙句、夜勤職員が救急車を呼んでくれただけで「ハイ、おしまい」。

★入居一時金の返還保証があると聞いていたのに、一年足らずで退去したにもかかわらず、何だかんだと理由を付けられて、一銭も返してもらえなかった。
 
 これらは決して珍しいことではない。今もどこかでこうしたことが起こっている。元気なうちから、こんなときの対応策について学んでおくことが大切になってくる。 

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