NPO法人 二十四の瞳
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突然の退院勧告

質問
75歳の母が、昨年末に梯子から落ちて右大腿部を骨折し、入院しています。入院先の病院から2日後に退院だと言われたものの、本人のみならずご家族も自宅に戻すにはまだまた不安です。あとしばらく病院で療養させたいと思うのですが・・・。


回答
私どもの相談案件トップ3に入るテーマです。そもそも入院した時点で、クリニカルパス(入院中の療養計画)に退院時期の目安が盛り込まれていないこと自体、その病医院の品質を物語っていますが、実際には場当たり的な入退院が当たり前になっている病医院がかなりあります。退院を告げられた際に、まだ不安を感じるようであれば、まずは次の3点をきちんと伝えることが必要です。
 
①本人またはご家族が抱いている不安 
 ②その上で退院時期の再調整依頼 
 ③転院先医療機関の紹介依頼
 
こうした患者さんからの相談や要望に対応する部署として、病医院の中には地域連携部門というのが存在します。組織の名称としては「地域連携室」が一般的でしょうか。また、規模の小さい病医院の場合には、MSW(メディカル・ソーシャルワーカー)なる専門職がこれに代わります。

いずれにせよ、『連携』というのがキーワードで、患者さんの退院や転院に係る不安を軽減したり、療養効果を上げたりするために、連携する他の医療機関や介護事業者、さらにはさまざまな生活支援事業者(配食、薬、リフォーム、タクシー等)などとのチームプレーが役割になります。

 
ですから、仮に病院側の都合で退院勧告するのであれば、転院先の紹介と申し送りをキチンとやって患者さんやご家族の不安を取り除いてあげるのが本来の連携であるはずです。

 
 患者さん本人やご家族は、治療環境が変わることに対していろいろな不安を抱きます。この不安を低減するために、退院元病院と転院先病院の然るべき担当者たちが患者さんの情報を共有し、今後の治療や介護の方針や治療内容、考慮点や生活上の注意事項などについて患者さんやご家族同席の下で協議・確認をする。

自宅療養するのであれば、家族による看護・介護の留意点、想定されるリスクとその対応についてきちんと説明する。さらに、不自由のない生活を送るために必要または有効と思われるサービスを紹介する。こういうことが本来の『連携』であるはずです。

 
しかしながら、この本質的な部分がすっかり忘れ去られている現状があちらこちらの病医院で見られるのです。「うちは連携先がたくさんあるから安心ですよ」と言っておきながら、いざとなると「転院先は患者さんのほうで探してもらうことになっていますので」とホカるのであれば、金輪際、『連携』という言葉は使って欲しくありません。
 
私どもに寄せられる相談の多くが、この『連携』という言葉の曖昧さや両者間(患者側と病医院側)の意識ギャップに起因するものです。
 
①病院から(患者さんやご家族にとっては)唐突に退院を迫られ、自宅での受け入れが心もとない家族は自ら転院先を探したり、折衝したりしなければならない。

⇒ 各病医院の地域連携部門は、対外的なチャネル拡充活動はそこそこやっているかもしれないが、患者側の意向を汲み取りながら退院後の具体的なサービス提供体制を確保することについては関心が希薄であると言わざるを得ない。

 
②訪問診療を受けている患家が、休日および夜間緊急時の連携先と(主治医から)教えられた病院に電話すると、当直スタッフから「はぁ?」という対応をされた挙句、一から事情を説明しなければならない。

⇒ 主治医に対して、特に高齢者は気を遣って言いたいことを我慢する傾向があるから表面化しないが、こんなのハッキリ言って詐欺です。
 

③「医療機関と連携しているから安心」と謳われている高齢者施設の入居者が、いざ夜間にナースコールを押すと、夜勤スタッフが救急車を呼んでくれるだけで結局は家族が夜中に呼び出される。

⇒ これは双方に問題があるのだが、一般的には弱い立場にある利用者側に対して、自施設の医療機関との連携内容について事前にしっかりと説明し、理解してもらえるよう努めるのが本当のところであろう。

 
誤解を恐れずに言うならば、世の中の地域連携には偽物が多いと思います。今年からは、地域にひとつでも多く『真の連携』が構築・実践されることを望んで止みません。そして、『真の連携』を謳う以上は、是非とも以下の3要素を満たした上で“連携”という言葉を口にして欲しいものです。

(1)連携先の確保
自院の守備範囲外の機能やサービスを提供してくれる、可能な限り多くの病医院、介護事業者、生活支援事業者とパートナーシップを構築する。

(2)責任所在の明確化
連携に係る責任部署・責任者を明確にし、そのミッションを理解させる。多くの場合、地域連携室やMSWがこれに当たるのだろうが、医療と介護の垣根が無意味となった今、対外的に連携網を拡充していくためには、社会福祉士という国家資格者が適任ではないか。

(3)連携プロトコルの設計
患者さんを引き渡す側と受け入れる側との手続きやプロセスをマニュアル化することが不可欠だ。引渡し後のフォローアップや病態急変時のオペレーションは是非とも盛り込んで欲しい。特に、退院時カンファレンスには、受け入れ側からも然るべき担当者(看護師&地域連携担当責任者がベスト)を参画させることが肝であろう。

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