さて、これから経営再建を目指すのであれば、まずはこれほどまでのマイナスからの出発になるということを肝に銘じておく必要がある。このレポートで処方することになるPRM。いきなり結論を言ってしまえば、その本質はアナタの能力や技術の問題ではない。それは、モラルの問題と言っていいだろう。
時々刻々と変化する医療制度をウォッチして診療体制を弄っても、コンサルの口車に乗ってEBMやABCを導入しても、機械屋の接待攻めに陥落して云億の最先端検査機器を入れても、上辺だけの「患者様第一」という貼り紙を院内にベタベタと貼り付けても、そんなことはいまのアナタには意味がないことを知るべきだ。誤解されるといけないので言っておくと、これらはいずれも重要な施策だろう。しかし、優先順位が違うのだ。
アナタがいま置かれている状況から抜け出すためにまずやるべきことは、そんな杓子定規なことではない。もっと基本的で、しかしながら本質的なことだ。事業体の社会的評価の最たるもの。それが利益だ。一年間の事業活動が地域社会にもたらした付加価値。それが評価されれば利益が出るし、もっとがんばれと叱咤されればそれが損失となって表れる。
そして、利益すなわち儲けを捻出するためにもっとも重要で真っ先にやらねばならないこと。繰り返しになるが、儲という文字を分解してみるといい。「儲=信+者」なのだ。アナタの信者、ファンを増やすことこそがアナタの事業成功のカギなのである。ご理解いただけるだろうか?
それでは、これをご理解いただけたという前提で、コンサルタントに従うことのリスクについて触れてみたい。コンサルタントにいいようにしてやられる医師がなんと多いことか・・・。誠に嘆かわしいことである。
コンサルが得意とするのは「守り」の施策だ。BPR、BSC、ABC、院外処方・・・。どれも現状オペレーションのムダ・ムリ・ムラを見つけて潰し、生産性向上や効率改善を追求するツールである。経営上これらが重要なのは間違いないが、これらを遂行することになる職員の感情が無視される場合が後を絶たない。なぜか。やってて楽しくないからだ。そして、もっと恐ろしいのは、コンサルのように処世術に長けておらず、純粋な職員たちの場合、それが患者と向き合ったときの言動に出てしまうことだ。
付け加えれば、概してコンサルは頭がいい。職員とはIQレベルも育ってきた文化も違う。コンサルの話は難しいのだ。話が抽象的で具体性に欠けるのだ。何だかよくわからないまま、あれこれ作業を与えられ、ストレスが溜まる。場合によっては、結果的に自分たちの仲間を切ることだってある。こうした消化不良感が、接遇や看護に微妙に、ときにストレートに出てしまうのだ。
一方、多くのコンサルタントが「攻め」の施策に手をつけたがらないのには理由がふたつある。
まず、自ら商売(医療機関の経営)をしたことがないからわからないのだ。彼らの話がやたら概念的・抽象的に聞こえるのもそのためだ。もうひとつの理由は効果が測定しづらいからだ。彼らの経営指導がダイレクトに効いて売上や顧客数が上がったのかどうか、明確には測定できないからだ。従って、「守り」の世界に走った方が、ビューティフルなエンディングを演出できるというわけだ。
ついでに言っておくと、コンサルにとって美味しいビジネスのひとつにリサーチがある。患者満足度調査というやつである。現状を多角的に分析して限りなくビジュアルに提示。検討課題をズラッと並べるだけ並べる。で、云百万円也。実に後ろ向きだ。問題ばかり並べたてられて喜ぶ職員もいないだろう。
私からすれば、So what ? (それでどうしたの?)である。解決を突然振られた部署や担当者は当然仕事が増える。みんなネガティブになる。最近流行の不満足度調査など最たるものだ。エリート面した若者から患者のクレームをこれでもかと叩きつけられる。やってらんないわ!となっても不思議じゃない。つまり、ヤル気を削いでしまうのだ。
満足度調査はやり方をまちがえると命取りになる。CSとは実に奥が深いが、最も簡易で、最も有効なやり方がある。ハーバートビジネススクールがその有効性を示し、CS経営で有名な欧米のトップ企業群はこれを採用している。それによれば、患者に尋ねる質問はたったひとつ。
「ご家族や知人に健康上の何かが起こったとき、当院をご紹介いただけますか?」
これだけでアナタの病院・診療所の支持率がわかる。現時点でのファンが誰なのかもわかる。
概ねこんな内容だが、患者満足度調査については、別途機会を設けて話すことにしよう。