外科医の切りたがり


さて、先述の外科医と一杯やりながらこんな話を聞きました。私が、「俗に“外科医の切りたがり”というが、本当に手術はがんに有効だと思っているのか」と質問したときのことです。彼の答えは、執刀する外科医にも真実はわからないというのが本音とのことでした。

例えば、転移のあるがんの手術をして患者さんが1年後に亡くなったとします。患者さんの家族は、「手術しなければ半年しかもたなかっただろうけれど、手術が成功したおかげで1年も生きられた」と言うでしょう。どうしてそんなことが言えるのかといえば、「お医師さんがそうおっしゃったから。できるだけのことをしていただいたから」と…。これが典型的な関係者たちの心模様ではないでしょうか。

このあたりのことで悩んでいる外科医は少なくないようです。「この患者のがんは末期がんで、手術しなければ半年余りの命だ。しかし少なくとも数ヶ月は普通の生活ができるだろう。手術をすれば1年は生きられる。しかしQOLは低下し、再発すれば患者の苦痛は大きくなる。ベッドを離れての生活は困難になるだろう」といった葛藤がままあるそうです。でも、がんであることを告げておいて手術をしないと言えば、「手術ができないほど悪いのか」と患者や家族が絶望しかねない。そこで結局、外科医は患者の身体にメスを入れる道を選択するのわけです。彼自身も、こうした葛藤が日常茶飯事だと言っていました。この原因のひとつは、おそらく一般人(患者さんやご家族)の意識のなかに、“がん=手術”という図式が強く染みついているからではないでしょうか。だとすれば、この思い込みを打ち破る必要があると私は思うのです。そして、この問題を考える際に忘れてはならない真実がふたつあります。

ひとつは、「(医師が言う)手術をしなければ半年で死ぬ」という科学的根拠はどこにもないということ。もうひとつが、実際に摘出手術を受け、抗がん剤や放射線治療を受けた患者さん当人の苦しみは誰にもわからないということです。

寿命を縮める外科手術


がんの摘出手術について、最初に問題提起をしたのは、慶應大学病院の放射線科の医師である近藤誠氏だと思います。1995年に出した
『がんは切ればなおるのか』(新潮文庫)で、好感度の高かったアナウンサー逸見政孝氏とニュースキャスター山川千秋氏を例にとって、がん手術の有効性に疑問を投げかけたのです。当時はとても衝撃的な内容で、医療界全体を巻き込んでの大論争となったものです。その後も何十冊という著書が出されていますが、近藤氏が一貫して訴えているのは、「がんの手術はするな」、「がん検診は不要」、「抗がん剤は効かない」、「患者本人に告知せよ」の4点です。がん恐怖症に陥りかけていた世の中に、「もしかしたら手術をしない方がよいかも知れない」という時代の雰囲気をもたらした功績はとても大きかったと思います。

当時はまだ、今ほど医師という人種の権威が地に落ちてはいなかった時代です。患者さんからすると、医師が手術だと言えば、それは当然自分を助けるために言ってくれているものだろうという先入観がありました。しかし実際には、患者さんをモルモットがわりにして論文を量産するために行われた手術もあったかもしれません。そのことを世間に知らしめ、医師の言うなりになることなく、自衛のためにも勉強すべきだと啓発した意味は計り知れません。あれ以来、確実にがん患者さんやご家族が、がんというものについて情報収集したり、医師にいろいろと説明を求めたりする習慣がついてきたように感じています。そしてこれは、これから医療が健全に発展していくためには非常に価値のあることです。

かつて結核をはじめとする伝染病や、栄養不良に起因する外来性の病気に有効だった「早期発見・早期治療」という方法論は、がん、脳卒中(脳血管患)、心臓病など、今日的な生活習慣病には必ずしも通用しないという考え方が世界的に広まってきています。何といっても、
がんによる死亡者数が毎年増え続けている事実が、結局「早期発見・早期治療」が逆効果になっていることを証明しているではありませんか。適切な検診や適切な治療が行われているならば、がんで亡くなる人たちの数は徐々にでも減少してきていいはずですからね。

なのに日本では、がん対策として“早期発見・早期治療”とあちらこちらで盛んに謳われています。しかし、こういった世間では常識とされていることほど疑ってみた方がいいのかもしれません。例えば、自治体などで盛んに喧伝されている集団検診。私が思うに、そもそも集団検診で見つかるようなレベルまで大きくなったがんは、もはや早期発見とは言えません。仮に、PETなど云億円もする高価な検査機器で些細な腫瘍を発見したとして、現在のがん治療では摘出手術と術後の
抗がん剤および放射線治療という流れが一般的です。

しかし、こうした従来の治療法では免疫系をかなり抑制してしまうことがわかっています。患者さんの身体を衰弱させ、生きようとする意欲や心身の活力を萎えさせてしまうのです。がん自体が多少小さくなったとしても、全体として良い結果が出ないケースがたくさんあるのです。つまり、いくら早期発見をしたからといって、治療法の選択を誤ったのでは意味がないということです。無理やり見つけて、なんでもかんでも抗がん剤や放射線で治療しようとしたら、何もせずに放っておくよりも危険な場合が多いのです。ここらあたりの事情について、医師のみならず患者さんも理解することが必要だと思います。化学物質や放射線で身体を痛めつけて病気が治ると思うほうがおかしいと思いませんか。

いまや国民の2人に1人ががんで死ぬ時代です。患者さん側も情報武装する必要があるでしょうが、医師のほうも真のプロフェッショナルならば、何も治療しないということも含めて、がんには手術以外にも選択肢があるということをわかりやすく示さなければならないと思います。たまたま入局した医局が提唱する治療法に固執するだけで、自身が学んでいないからといって別の治療法を頭ごなしに否定するのではプロ失格と言われても仕方ないでしょう。

そして患者さん側も、そんなプロ失格の医師が多いという前提で自ら学ぶことが必要です。自分を守るのも、健康にするのも、医師ではなく自分自身であるという真実をしっかりと認識しておくべきなのです。

がんは切るな

ご主人(84歳)が、精密検査の結果、末期の大腸がんと診断され、慌てふためいて飛び込んでこられた女性がいました。一年前に自治体で受けた検診では異常なしだったにもかかわらず、です。すぐに摘出すれば成功の確率はほぼ100%だと言われたらしいのですが、当のご主人は手術だけは死んでもイヤだと言う。そこでご主人と会って話してみると、本人は痛くも痒くもないそうです。84歳。日常生活の支障はまったくない。術後の人生のことまで含めて考えたら、どう考えても摘出手術のリスクのほうが高いに決まっています。私は、手術は心でもイヤという直感は当っている可能性が高いように感じると伝えました。

基本的に外科医というのは、がんにはまず手術という習性があるものです。なぜならば、「身体に悪いところがあれば切り取るのが外科医の仕事。手術はがん治療のプロフェッショナル・スタンダードで、がんと診断しておきながら何もしないというのは外科医の倫理に悖る」という教育を長きに渡り受けてきたからです。だから外科医は“取れるがんは取る”し、何も知らない患者側ももちろん、“がん治療の第一選択肢は手術”と信じて疑うことはありません。しかし、言ってみればこれこそまさしくEBMとは対極の理屈だと思いませんか。

もうひとつ、こんな相談がありました。77歳の女性が肝臓がんと宣告されました。転移もひどく末期とのこと。しかしながら本人には何の自覚症状もなく、これまた1年前の検査では異常なしだったそうです。この先何をどうしたらいいのかわからない。先生、助けて…とのことでした。

相談していただいた時点で一切苦痛がないということなので、ちょっとじっくりと考えましょうということにしました。そして、まずはセカンドオピニオンです。これだけの重篤な診断結果ですから、複数の専門医の見解を聞かずして手術するなどはもってのほかです。必要であれば、専門医の紹介もする旨お伝えしました。

次に、セカンドオピニオンの結果、末期がんが確定した場合、治療法の選択をどうするか。これが相談者の今後の人生にとっての分岐点です。年齢的なことや広範囲への転移を考えると、まず摘出手術は絶対に避けるべきかと思います。例え手術が成功しても後々の生活がキツい筈です。術後の放射線や抗がん剤は、いずれも副作用の覚悟が必要になります。何より気分が悪くてどうしようもない場合が多いのです。

現時点で痛くも痒くもない以上、敢えてリスクの高い従来の治療法を選択することはお薦めできません。主治医には、「放っておく(手術や化学的治療を行わず、生活習慣を改善しながらがんと折り合いをつけていく)」という選択肢も含めて、相談者の「生活の質」の観点から最善策を提示してもらえるよう要請しました。基本的な考え方として、そもそもがんは生活習慣病です。つまり、糖尿病や高血圧と同様、現代の西洋医学では根治できない病気です。がんのような内なる病気に対しては、根本原因を取り除かない限り、むしろ
治療すればするほどがんの患者さんが死んでいくという傾向があります。私は、実際に従来のがん治療を受けた人たちがすぐに衰弱して亡くなられてしまうのを嫌というほど見てきました。


さて、結果的にこのケースは療法とも、患者さんが高齢という点を考慮して、食事、運動、適温維持等の生活改善で免疫力を高める工夫をしていきましょうということになりました。その結果、腫瘍マーカーの値にも改善が見られ、初めてお目にかかったときからは想像もできないくらいに表情も明るくなられました。今では体内に巣喰ったがん細胞とうまくつきあっていくという開き直りみたいな気持ちだと仰っています。

がんのメカニズム


ちょっと難しくなるかもしれませんが、まずはじめに、がんという病気がどのようなメカニズムで発生するのかということをお話しておきます。大切なところなので我慢してください。がんとは、異常な遺伝子が際限なく増殖してしまい、過剰に発生した細胞が腫瘍を生み出す病気です。人間には、あるレベルまでは細胞を制御する機能が備わっているから問題ないのですが、その能力を上回るほどの激しい細胞分裂が起きるとコントロールできなくなってしまうのです。

この過激な細胞分裂の一因としてフリーラジカルと呼ばれる異常分子があります。フリーラジカルとは、「自由自在に動き回る攻撃分子」という意味で、体内の分子が何らかの刺激を受けて一部分が壊れると、それを補おうとして周辺の正常な分子まで攻撃してしまうのです。このフリーラジカルの攻撃が他の分子に次々と連鎖し、遺伝子まで傷つけてしまうとがんが発生するということになります。

もっとも代表的なのが、酸素分子がラジカル化した活性酸素です。また、脂肪もフリーラジカルになりやすく、体内に大量に存在するため連鎖反応が起きやすいという特徴があります。他にも、フリーラジカルを発生させる刺激物として、紫外線、放射線、
X線、さまざまな化学物質や排気ガスなどが挙げられます。こうした原因によって異常な遺伝子が異常に増殖することで、腫瘍というものが出来上がります。

そして、ならばその腫瘍を摘出しようじゃないかというのが西洋医学の基本的な考え方なわけです。でも、がんが発生する原因をよぉく考えてみると、そもそもの元凶は私たちの日常生活のなかにあることがおわかりいただけると思います。と言うことは、表面化した腫瘍だけを削ぎ落としたとしても、根本的な私たちの生活を改めなければ、やがてまたがんが復活してしまうのではないかと考えるのが普通ではないでしょうか。ある意味では、だからこそがんの手術が成功したはずの人たちが、術後しばらくするとバタバタと死んでいく。その繰り返しなのだと思います。つまり、悪い病気は「モトから断たなきゃダメ!」ということなのです。


また、
1996年には、がんの発症については白血球の自律神経支配が関わっていることが新潟大学大学院の教授である安保徹氏によって発表されました。安保氏は、「がんになる人は人生に無理がたたっていて、そのストレスががん発症のひきがねになる。無理な生き方をしていると、交感神経の緊張が長く続き、活性酸素によって組織が破壊されやすくなるからだ」という安保理論をまとめて旧態依然としていた医学会に衝撃を与えました。そこでは、「これまでのように原因不明だからといって対処療法をするのではなく、生き方を見直すことこそが何よりのがんの治療法。いいかげんに、身体を痛めつける治療からは脱却しなければいけない時期にきている」と警鐘を鳴らしています。

食事もオーダーメイドの時代?


あと、さまざまな生活習慣の不摂生が肥満の引き金となることはわかっていても、自分の意思だけでコントロールすることはちょっと難しいかもしれません。いくら普段の食事や運動などの生活習慣を改善しなければという意識は高かったとしても、ひとくちに「健康管理」といっても複合的な要素が絡み合っていますから、素人が考えたアイデアをただ実践するだけでは本当に効果が上がるとは限りません。

となるとこれから代は、個々人のライフスタイルや遺伝体質、さらには人生観や価値観までをも配慮したオーダーメイド型の生活指導サービスが求められる時代が来るのではないでしょうか。つまり、健康維持増進に役立つ食生活,運動習慣,休養など生活習慣全般に関する詳細なアドバイスを提供する『パーソーナルトレーナー』とでも言うべきサービスです。

そのためには、医師のみならず、薬剤師・管理栄養士・健康運動指導士等の専門職で構成された健康指導チームの存在が不可欠になってきます。あるいは、管理栄養士という国家資格にとどまらず、健康のための生活習慣改善をミッションとする、さらに守備範囲の広いスペシャリストの存在が必要になる可能性もあるでしょう。医食同源、人を良くするのが『食』です。私としても、パーソーナルトレーナー的なサービスについて検討していきたいと考えています。

特定健診よりもはるかに大事なこと


ところで、不規則な生活や食習慣が原因で起こる生活習慣病の代表的なものは「高脂血症」「高血圧」「糖尿病」「肝臓病(脂肪肝)」などです。厚生労働省の調査では、これらの潜在的な患者数は国内で3千万~4千万人と言われ、国民全体の約3分の1にも相当します。これらには自覚症状が長期に渡ってあまりないという共通の特徴があって、本人が気づかぬうちに病気が進行してしまい、結果として、がん、心臓病、脳梗塞などを引き起こすことになりますから、メタボの基準値が適切かどうかは別にして、私たちが健康になるために意識すべき項目であることはまちがいありません。

私の周囲を見渡してみても、やはり体重の管理は現代人にとって最も関心の高いテーマのようです。若い女性のニーズであるダイエットという意味合いではなく、近頃は老若男女を問わず、健康維持のための「肥満防止」に気を配る人たちが増えているのが特徴です。ジャンクフードやファストフードが広く普及したため、それに慣れてしまった子どもたちにまで肥満症状が多く現れ、それが原因となって糖尿病などの生活習慣病を患ってしまう。そんな憂うべき時代になってしまったのです。

となれば、まずは胡散臭い特定健診など即刻止めて、無駄に使っていた税金の使途をもっと国民の健康に本当に役立つ方向に充当すべきではないでしょうか。例えば中学校の保健体育の授業で正しい健康情報や知識について指導する等、真の病気予防や健康増進のための教育にこそ、国家の一大事業として着手すべきだと思います。一部の業界や医師の商魂が見え隠れする特定健診などよりもはるかに価値があります。検診や治療よりも病気にならないための予防教育にこそ、限りある資源をあてがうべきなのです。

現代人が抱えているストレスや運動不足を解消する具体的な方法や、体内に取り込むと人体に悪影響を及ぼす有害な化学物質などの情報を収集し、テレビの人気番組や自治体の広報誌やケーブルテレビを利用して伝えたり、食品添加物や合成洗剤等を使わない生活への改善を促す対策を立てて、市町村や学校単位で指導したりする等々。そのほうがよほど医療費抑制につながるはずだし、定期的に健診や検診を受けるよりはるかに効果的だと思います。

意味のない健康診断


テレビでもお馴染み、新渡戸文化学園東京文化短大学長の中原英臣氏。彼はもう
20年以上、健診の非有効性について調べていて、一貫して否定的な立場を取っています。つい最近もテレビでこんなことを話していました。「日本人間ドック学会の調査(2006年)によると、健康診断を受けた295万人のうち「異常なし」は全体のわずか11%しかいなかった。つまり9割が異常というわけだが、これに対して厚生労働省の研究班は、健康診断で行う代表的な24項目のうち、16項目には数値基準に十分な根拠がないということを指摘した。こんな意味のない検査を何の疑問も抱かずに行う医療側、それを知らされないでバカ正直に受けている国民。こんな無駄なことは一刻も早くやめるべきです」。

私同様に、メタボ健診についても中原氏は懐疑的です。「メタボリックシンドロームの診断基準は、
WHOではウエストとヒップの比率を重視している。日本の数値は他国と大きな違いがあるなど明確な医学的根拠が乏しい。結局、いまのままでは病人を増やすだけで、医師にしてみれば薬を出すいい口実になる。どう考えても医療費は削減どころか増えるはず」と呆れ顔です。

また、「日本という国は不思議な国で、全世界で効果が認められているものをなかなか導入しない。その一例がピロリ菌の除菌。ピロリ菌については、
16年も前にWHOが胃がんの発がん因子として指摘していて、実際、胃がん患者の9割からピロリ菌が見つかっている。これなら検査も簡単だし、私は井戸水を飲む機会があった日本の中高年の多くはピロリ菌に感染している確率が高いと考えているから健診にはこういうものこそ導入すべきと言い続けているのだが…」と渋い顔をしていました。

ちなみに日本でも、
2008年に北海道大学の浅香正博教授らの研究で、ピロリ菌の除菌で胃がんの発生が抑えられるということがわかり、英国の医学誌「ランセット」にも掲載され、注目を集めています。なお、教現在、ピロリ菌除菌には、その予防を目的とした健康保険の適用は認められていないため、費用は100%自己負担となっています。中原氏が指摘するように、私にも日本という国がよくわかりません(笑)。

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