医師との決別が健康の入口

 もしも読者のみなさんのなかで、糖尿病や高血圧症などの生活習慣病で何年も病医院通いを続けているのに、症状がいっこうに改善されないという方がいたとしたら、思い切って医師通いをやめてみるという選択肢があることを知っていただきたい。

 言うまでもなく、病医院とは病気や怪我を治してくれるところです。しかし、多くのみなさんが拡大解釈をしてしまい、病医院がみなさんを健康にしてくれるところだと勘違いされているような気がしてならないのです。だとしたら、それは決定的なまちがいです。みなさんを健康にしてくれる誰かがいるとすれば、それは医師ではありません。答えはみなさん自身であり、みなさんを心の底から愛してくれる人です。

 みなさんの心身の状態をいちばん理解できているのは、生まれてからこの方、ずうっとともに生きてきたみなさんに他なりません。少なくとも、昨日今日たまたま出くわした医師ではないはずです。そして、みなさんが誰かに愛されていることを実感できたとき、みなさんは心身ともに幸せを感ずることができるはずです。この本を読み進めていただくうちに、みなさんは自然とそのことを再認識されると思います。

 現在わが国では、いかに国民医療費を削減するかという議論が繰り返されています。さらに、医師の数が足らず医療崩壊だなどと言って、急きょ医学部の定員を増やしたりもしています。しかし、そんなことより以前に、今日の医療にはムダなものがたくさんあるという事実に正面から向き合うことが先決だと、私は感じています。

 にもかかわらず、日本という国を操縦している人たちがそれを敢行しないのには訳があります。いつの時代でもそうだったように、現状を変えることで損をする人たちがいっぱいいるということです。国がもし本気で国民医療費適正化を実現したいのであれば、製薬および医療機器メーカーや一部の医療機関や団体との馴れ合いを解消するのが先決だと思います。

 でもそれには政治とお金が絡みに絡んできますから、かなりの時間を要することは明らかです。であるならば、せめて読者のみなさんと、みなさんが愛する大切な人たちだけでもいい。今日の医療や健康についての真実を知っていただいて、健やかで幸せな人生を送って欲しいと思います。

 ということで、忙しい読者のみなさんのために、まずは結論から先に述べておきましょう。

おことわり

    今日現在、私たちが出入りする病医院で行われている医療。これは、近代科学の一分野である西洋医学に則った医療で、一般に『西洋医学』と称されるものです。おそらく99%以上の割合です。東大病院や慶應病院をはじめ、最近では「漢方外来」など一部東洋医学的な治療法を導入しているところはありますが、まだまだ希少です。

 で、いま「漢方」と言いましたが、西洋医学の範疇には入らない医療が世界中にたくさんあります。漢方などでよく私たちにも比較的馴染みのある中国医学をはじめ、インドのアーユル・ヴェーダ医学、ドイツ人医師によって欧米に広まったホメオパシー、さらには最近コンビニでもよく見かけるサプリメント、その他、ヨガ、気功、霊気、太極拳、各種の祈り、食餌療法等々。こうしたものを総称する言葉として、代替医療、東洋医学、東洋医学など複数の呼称が存在していて、まだ統一見解には至っていないのが実際のところです。

 本ブログでは、読者のみなさんにすっきりと理解していただくために、便宜上、『東洋医学』という言葉を使わせていただきます。どこまでを東洋医学に含めるかというのは非常に難しい問題ではありますが、現代医療の象徴である『西洋医学』に対して、それ以外のすべてのものを『東洋医学』と表現させてもらいました。西洋と東洋という字面を見ても、両者を比較しながら読み進めていただくのがわかりやすいだろうと思うからです。ここのところを誤解曲解のないように、はじめにお断りさせていただきます。

このブログを始めたワケ

    私は、医師の仕事はただただ患者さんを治すことだと思っています。そのためには西洋医学だの東洋医学だのという枠は取り払って、目の前の患者さんにとって本当に効果があると判断したものを治療に取り入れていくのが医師の務めだと思うのです。だから、今回この本を書くことにしたのです。たまたま西洋医学と東洋医学を学んだ結果として、双方の長所短所や強み弱みといったものがわかってきたからです。

 ひとりひとりの患者さんが抱えている病気は、同じものなどふたつとありません。たとえ病名が同じでも、その患者さんが何十年も人生を生きてきたなかで現れてきた症状である以上、原因は異なるはずです。ならば、その患者さんが辿ってきた道のどこに根源的な原因があるのか。それを患者さんとじっくりとお話しながら見極めたうえで、それを取り除いていくための治療法を検討していきます。ある意味では、完全オーダーメイドの医療ということができるでしょう。

 今日では、巷の多くの病医院の診察室で、医師たちが患者さんの訴える症状を、ただそれだけを解消するために薬を処方するといった光景が一般化しています。これを対症療法と言います。しかし、本当にその患者さんの健康を真剣に考えるのであれば、その症状をもたらした行動を突き止める必要があるはずです。さらに、患者さんはなぜそのような問題行動を取るようになってしまったのかといった生活背景までを追求していく姿勢が求められます。生活習慣病への対処というのはそういうものです。

 東大の名誉教授で、多くの著作もある養老孟司氏は、「同じ病気や症状であっても、患者さんが受けている感覚というのはすべて異なるものだ。病人のケアに関わるのであれば、相手と自分との違いを認識し、その上で相手を理解しようとすることが大切だ」と仰っています。私は、いつもこのことを意識しながら、同じ一個の人間同士としてお互いが影響しあい自己発見していけるような、そんな関係が作れたらいいなと考えながら毎日の診療に当っています。

 そのなかで、みなさんが医療というものについて誤解していたり、疑問に感じたりしていることがたくさんあるのだなぁと思うようになりました。なので今回は、みなさんやみなさんの大切な家族が健康になるために、あるいは適切な医療を受けるために、知っておいたほうが良いこと、知っておかなければならないことについてわかりやすくまとめてみようと思ったのです。


 どうか肩の力を抜いてお読みいただき、いま通院している病医院や医師との関係をちょっと見直してみるきっかけにしていただければいいかなと思っております。そして、みなさんの健康を授けてくれるのは決して病医院や医師ではなく、答えはみなさん自身のなかにあるということに気づいていただけたら嬉しく思います。それでは、みなさんの毎日が健やかで幸せなものとなりますよう心から願っております。

ドクトルJクリニックのこと

    私は現在、京都と東京の2ヵ所にクリニックを構えています。がんの患者さんを筆頭に、西洋医学で見放されてしまった人、西洋医学に見切りをつけた人、さまざまな問題を抱えた人たちが全国から集まってきます。クリニックでは、漢方と人胎盤組織療法、温熱療法をベースに治療を行っています。漢方はエキス製剤でなく生薬を煎じています。そのほうが成分も濃く出ますし、何よりも患者さん個々の症状にあわせたオーダーメイドで処方できるというメリットがあるからです。鍼灸では、刺絡療法といって、ツボに針を刺して鬱血を取ることで血流をよくする治療を行っています。あと、積極的に食事指導を行っています。食は治療の基本です。栄養をバランスよくきちんと摂ること。そしてよく噛むことで脳を活性化させることが非常に大事なのです。

    毎日の診療においては、とくに
3つのことを意識的に心がけるようにしています。
ひとつめは、初診時には必ず、30分程度のオリエンテーションを行います。そこは、患者さんおよびご家族と私とのあいだにパートナーシップが結ばれるかどうかの判断を下す場でもあります。

 まずは、治療方針の共有です。前医から取り寄せた検査データに基づいて、私から患者さんとご家族に所見を伝えます。そして治療方針と治療内容を共有していきます。東洋医学が必ずしもパーフェクトではないことも、科学的に証明されていない部分があることも含め、真実を明確にお伝えしています。

 もちろん患者さん側の自由選択もあります。しかし一方で、私にも譲れないところもあります。自分ならどうするか。なぜならば…という部分にまで踏み込んで、ご理解いただけるまで話し合うようにしています。場合によっては、もとの西洋医学の世界へ戻るよう勧めることもあります。私なりに西洋医学と東洋医学の適時適材適所を持っているつもりです。それを患者さん側が理解してくれて、納得してくれて、その上で私を信頼してくれて初めて契約成立ということになります。もちろん、物理的に契約書があるわけではありませんが、このようなプロセスを経ることで、目的を共有して一緒に治療に取り組んでいこうという関係ができるわけです。

 そしてつぎに生活指導です。がんをはじめとする現代の病気のほとんどに食生活の乱れが影響しています。これを見直すことはもっとも重要だと考えています。他にも運動や呼吸法や睡眠など
7項目について、詳細かつ具体的なアクションプランを指導したうえでマニュアルを渡すようにしています。紙で渡してあげると、やはり患者さんは嬉しいようです。


 さいごに、向かい合った相手が喋りやすい雰囲気をつくることです。まだまだ発展途上かもしれませんが、いろいろと勉強して工夫しています。ご高齢の患者さんですと、なかなか緊張してしまってご自分のことなのにうまく話せないという心配もあると思うのです。それでなくとも、「医師が上、患者が下」的な風潮がはびこっていますから、何とか患者さんと同じ目線でお話を聴くことが大切かなと。リラックスしていただくことで正確に状況把握したいということですね。でないと適切な診断や治療ができなくなってしまう危険性があります。信頼関係を築くには、やはり円滑なコミュニケーションが不可欠です。患者と医師というよりは、人と人として向き合う関係こそが、効果的な治療に繋がっていくと認識しています。

夢破れて山河あり

 若き医師は戸惑っていた。医学部の全課程を修了し、颯爽と臨床の現場に赴いた彼は、颯爽と患者の治療にあたるはずであった。しかし、目の前にいる患者を治すことはおろか、症状を改善することすらできなかった。名高い教授連中から学んだことを忠実に行えども行えども、すべてが何の役にも立たなかった。ついこの間まで希望に満ち満ちていた彼は、患者に対する無力に苦悩する。なぜなのだ・・・。

 挫折しかけた彼にひと筋の光が差し込む。漢方の権威との出会いである。世間の認知度はもちろん、彼が属する側の世界では亜流も亜流。しかしながら、人体を傷つけることなく内面から人間が本来もつ自然治癒力を高める東洋医学のアプローチは、若き医師の琴線に触れた。それこそ、ビビッときてしまったのだ。

 そして・・・。ただ患者を治したいという一念から、彼は信じられない行動に出る。がん、慢性腎炎、リウマチ。勤務していた病院の患者に、こっそりと漢方の権威を紹介したのだ。しかも彼の受け持ち患者のみならず、別の医師の患者までも。

 医療界の掟を無視している自覚はあった。だから内々に取り持った、はずだった。彼が予期していたとおり、患者たちには一様に改善が見られた。が、喜んだ患者は内緒だったはずのことを口にしてしまう。無理もない。そうせずにはいられないほど嬉しかったのだ。若き医師は窮地に追い込まれた。上司の、病院の、そして西洋医学の面子を潰してしまったのだから。

 東洋医学への思いをさらに募らせた彼を、漢方の権威は諭した。まずは西洋医学のベースを身につけるべき、と。彼は京大大学院へ転じ、肺がんの研究で医学博士号を取得。その後、国立病院でキャリアアップしていく傍らも、漢方と鍼灸を本格的に学び続けた…。
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    ちょっぴり恥ずかしいのですが、ここに登場する若き医師が40年前の私です。私にとっては、まさに美しき若葉の頃です(笑)。必死で勉強してきたことをいよいよ臨床の現場で試そうとした矢先に、やることなすことのすべてが効かないという驚愕の連続でした。曲がりなりにも、病気で苦しんでいる患者さんたちを救いたいという夢と理想。当時の私はそんな思いが満ち満ちていました。それがいきなりの挫折です。そして漢方との出会い。人間が持って生まれた、言わば自然のままを追求する中医学(ちゅういがく)の考え方はすっと腹に落ちました。理想(夢)と現実のギャップに落ち込んでいたのが影だとすれば、漢方との出会いは私にとって救いの光だったのです。

 西洋医学の無力さを突きつけられ失望していた私は、人の身体の自然な姿を取り戻させる東洋医学によって再び患者さんたちと向かい合う情熱を持つことができたのです。山河を自然の象徴とするならば、当時の私の心境は、まさに『夢やぶれて山河あり』といった感じだったのです。

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