西洋医学の驕り

    先述のように、西洋医学の一番良いところは、早期発見早期治療を実現するための方策が豊富であることです。非常にハイテク化された医療機器が数多く開発され、抗生物質も大変威力があり、救命や延命に多大な貢献をしています。輸液や輸血についても非常に役立っています。でも一方で、抗生物質について言えば、それによって耐性菌による新たな感染を引き起こしてしまうといった問題もあるわけです。つまり、西洋医学にも得意な部分とそうでない部分があるということです。

    かくいうこの私も、そもそもはがんだったら手術するというような典型的西洋医学の流儀でがん治療の臨床に携わってきたのです。しかしながら臨床現場に出てまもなく、抱いていた夢と希望と情熱があっさりと打ち砕かれてしまった。西洋医学で使われている抗がん剤が効かないのです。今日でも日本人に増えている、肺、胃、乳腺、前立腺等の進行したがんにはなす術がなかった。一生懸命に治療すればするほど、患者さんがどんどん亡くなっていくわけです。それまでに学んできた治療法では何もできないということが、日の目を見るより明らかだったのです。西洋医学の無力さに失望せざるを得ませんでした。

    たしかに抗がん剤はがんを壊してくれますが、同時に骨髄の造血細胞等、正常な細胞も壊してしまいます。がんをやっつけたとしても、患者さんの身体がダメージを受けてしまうのです。亡くなられた患者さんたちが治療過程で見せた本当につらそうな様子。あれを思い出すと、もっと他の方法はなかったのか。がんと折り合いをつけながら生きながらえてもらうような方法はなかったのかと悔やまれてなりません。

   結局、西洋医学には限界があったということです。にもかかわらず、全てを西洋医学でカバーしようとしていた驕りに問題があったのだと思います。医師であれば、例えば進行したがんとか難治性の慢性炎症性の病気というのは、従来の西洋医学的アプローチで治療しても副作用が強く完治できないことをいまや誰もが知っているはずです。仮に病気が治ったとしても、肉体的あるいは精神的なダメージが大きく、その後の生活が大変つらいことも明らかです。医師は治療が済めば終わりですが、患者さんは治療後も人生が続いていくのです。新しい戦いが始まるのです。この点に鈍感な医療者たちが実に多いことが、私には残念でなりません。


    ならば西洋医学が及ばない部分を東洋医学で補えばいいじゃないかとなるわけですが、なかなか東洋医学の可能性というものに目を向ける医師は稀少です。今日現在、西洋医学にはまだまだ傲慢さが残っていると言わざるを得ません。それは自分たちが長らく貫いてきたことへの信念なのか執着なのか、あるいは面子なのかはわかりません。ただひとつまちがいなく言えるのは、決して患者さんを思ってのことではないということです。患者さんを苦痛から解放して差し上げるという問題解決を放棄しているわけですからね。


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