米国における東洋医学の台頭
米国では過去10年以上にわたって、西洋医学に対して支払われた医療費よりも東洋医学(欧米では、西洋医学以外のすべての医療をこう呼んでいる)に係るそれのほうが上まわっています。全世界で見ても、WHO(世界保健機構)のホームページによれば、「全世界における健康維持サービス全体の6割以上を東洋医学が占めている」との報告が掲載されています。
つい先日もNYで暮らしている友人と電話で話していたら、向こうのテレビ番組で「米国・英国・カナダではがん患者の8割が、従来の西洋医学のみならず東洋医学をも治療に取り入れている」という報道があったそうです。これは驚くべき数字です。ここまでくると、グローバルな視点に立てば、東洋医学のなかにも十分なエビデンスがあるものや、私たちの健康的な生活に寄与するものも少なくないと考えたほうが自然なのではないでしょうか。
一般的に西洋医学でのがん治療は大きく分けて3種類です。ます第1は摘出手術です。2番目は抗がん剤による治療、3番目は放射線治療ということになります。米国では、これら以外の治療法を東洋医学と言っています。例えば、日本でよく使われる「漢方薬」も、米国では、薬ではなく東洋医学として扱われます。また、各種のマッサージや、ヨガ、気功、食事療法、サプリメント(ハーブ、キノコ類、ビタミンやミネラルによる治療)、コーヒー浣腸など数多くの治療法が、がん治療の一環として広く普及しているのです。それではなぜ、がんの補完代替治療が米国で多く取り入れられているのでしょうか。その理由は大きくふたつあると思います。
まずは国家全体として西洋医学の限界を真摯に受け止め、国家レベルで国民にとって最善の治療環境を作ろうとする意思が伝わってきます。国民のための健康戦略と言ってもいいでしょう。行政的には、10年以上も前にNCCAM(国立東洋医学センター)という研究機関を作って国立医療センターの一角を占めるポジションを与え、東洋医学の研究を推進しています。
当初は約2億円の予算という控えめなものでしたが、年を追って拡大の一途をたどり今や年間予算も130億円超。豊富な研究費を活用して、ビタミン・ハーブ・その他のサプリメントや鍼灸・磁気療法のような各種治療法に至るまで様々な東洋医学の研究を重ねながら科学的な根拠を提供し続けています。
政治家たちもすぐに動きました。米国議会は1994年にDSHEA(ダイエタリー・サプリメント健康教育法)という法案を成立させ、食品の中にダイエタリー・サプリメントという新たなカテゴリーを設けました。これは例えばサプリメント製品のパッケージに、「カルシウムは骨の形成維持に役立ち、骨粗しょう症のリスクを減らすことがあります」などの効果効能を表示することを認め、それによって栄養と健康について国民の健康意識を高め教育します。結果として生活習慣病などを未然に予防できれば、国の医療費増大を抑制できる、という法案なのです。こうして法的な環境が整ったことで、医薬品産業や食品産業はこの分野に積極参入し、サプリメント製品が爆発的に市場に出回るようになったのです。
また、教育機関である大学も東洋医学のニーズに柔軟かつ迅速に対応しました。米国医科大学協会の125大学のうち82大学が東洋医学についての授業や卒後教育コースを設けていますし、ハーバード大学・スタンフォード大学・コロンビア大学などの超一流大学では相次いで東洋医学研究センターを設立しました。