『希望の電話129』って知ってますか?

こんにちは、"ジャムおじさん" ことヤマザキです。

先日韓国に行ってちょっと驚いたことを紹介しようと思います。それは・・・。

韓国では、全国どこからでも局番なしに129番を押すと、24時間、保健福祉関連の相談を受けることができるってこと。韓国政府(保健福祉部)は、2005年から「129コールサービス」を開通し、国民基礎生活保障制度に基づく相談や各種健康・福祉サービス、児童虐待など緊急支援分野の相談などを一つに統合した『希望の電話 129 コールサービス』を行っているのです。

さらに、これから129電話が保健福祉分野だけでなく、雇用、教育など国民の立場で必要なすべてのサービスをワンストップで相談できる機関として拡充しつつあるそうです。

素晴らしい!

で、もうひとつ驚いたのが、韓国では病医院相互の情報連携がほぼ完璧になされていること。カルテをはじめとする患者情報はほぼすべての医療機関で一元共有管理されているため、日本のように病院を変わるたびに一から症状の説明をしなおしたり、複数の病院で薬の処方が重複したり・・・といったことがないわけです。

それにひきかえ、わが国の医療システムといったら・・・。
グググッ。ああ情けない。

国や行政に期待してもムダならば、例えばどこかの病医院で、24時間対応のお困りごと相談サービスなんてやってみたらどうでしょうか?病医院が健康上の問題以外にも相談に乗ってくれたとしたら、きっとファンが増えること請け合いです。

人の健康なんて、身体のことだけじゃないわけでしょ。暮らしの中で不安や悩みを抱えていたら、いくら病気を潰したって健康にはなれないんですから。

医療経営に逆風が吹き荒れるなか、こんなところが打開のカギを握っているような気がしてなりません。こんな話を耳にして、ビビッとくる医療経営者がどこかにいないもんでしょうかねぇ・・・。

患者が医者に求めるものとは

こんにちは。ジャムおじさんです。
 
医療機関の広告規制緩和が決まり、患者側の判断材料が増えるとなれば喜ばしいことではありますが、実際には医療機関側がPRしたいことと、利用者側が本当に知りたいことの間にはかなりのギャップがあるのが世の常です。
 
私どもNPO二十四の瞳(正式名称:市民のための医療と福祉の情報公開を推進する会)では、専門誌や行政が実施するありきたりなアンケートを良しとせず、独自の視点で問題意識の高い地域のシニアたち(高齢者クラブ会長、民生委員、公民館長ら120余名)に聞取り調査活動を行っています。
 
多くの場合、その調査結果は各医療機関等がインターネット上で掲載している情報とは乖離しており、医療や福祉を利用する側のホンネが手に取るようにわかります。逆に言えば、提供する側にとっては、今後、地域で選ばれる医療機関となるための示唆に富んでいると言っていいでしょう。
 
そのほんの一例を紹介しますと、例えば『利用者側にとって望ましい医者とは』の調査結果からは、その医者の人間としてのキャラクターや、医療従事者としてのポリシー、さらには家族構成や病歴・入院歴等のパーソナル情報等が強い関心の対象となっています。単に学歴や技術ではなく、ヒトとして向かい合うに相応しいか否かが、患者にとっては重要な判断材料となることがわかります。
(アンケート結果をご希望の方は、npo24no1103@ttv.ne.jp までコンタクトください。)
 
来年からは、こうした調査結果に基づき質問票を作成し、順次、医療機関に対してインタビューを申し入れていく予定です。最終的には、「首都圏ドクター名鑑」としてまとめ、会員に頒布していきたいと考えております。
 
他業界と比較して、なかなか情報公開が遅々として進まずに来た医療福祉分野ですが、患者側が求めている情報を積極的に提示し、オープンで利用者本位の経営をしていくことが、結局は地域になくてはならない医療機関として認知される近道と言えるのではないでしょうか。

橋田壽賀子さんの元気の秘訣とは?

ちょっと前の話になりますが、昨秋、『渡る世間は鬼ばかり』の橋田壽賀子さんの講演を出かけたことがあります。その際にいちばんは印象に残った話をご紹介します。

橋田さんの元気の秘訣はいつまでも仕事を持っていることだと仰っていました。
「病は気から・・・という言葉もあるように、気持ちを前向きに持つということは本当に重要なことで、その対象は、なにも仕事でなくてもいいのです。趣味でも道楽でもビジネスでも政治でも・・・。ただ、たまたま自分の場合は人様との縁もあって仕事だった」と。      

また、「要は、ワクワクドキドキ、ハラハラドキドキするような刺激が老化を抑制してくれるのです。なんの刺激もない生活に慣れてしまうと、ボケてないのにボケたようになってしまいがち」だとも仰ってましたね。

そんな話を聞いていて、友人の医者がこんなことを言っていたのを思い出しました。「認知痴症ではないのにボケているみたいになっている人は脳を使っていないからなんだよ。脳の老化で何が怖いかと言えば使わなくなってしまうこと。ただそれに尽きる」。

それでは、脳という臓器のどこから老化が始まるのでしょうか。そこがやられると、もの忘れが始まると注目される脳の「海馬」という部分があるのですが、実は、海馬より先に縮む部分が「前頭葉」です。

学習療法の開発者として有名な東北大の川島隆太氏は、「前頭葉が縮むと意欲が落ちます。意欲が落ちて、楽しみもやる気もなくなって頭を使わなくなり、体も使わなくなって歩行能力が落ちたりします。だから前頭葉の老化予防が重要になってくるのです」と言っていました。

では前頭葉を使うとはどういうことか。これこそが感情の老化抑制、つまり、ハラハラドキドキの感情体験をすることなのです。ですから、奥さんが黄色い声をあげて氷川きよしを追いかけ回しても文句を言ってはいけません。男性の場合には、ゴルフであれ、カラオケであれ、クラブ遊びであれ、奥さんは頭ごなしに叱ってはいけません。みんな、もうちょっと遊んでもいいんです。要は感情を若々しくするということが老化予防の基本なのです。

ちょっと飛躍したかも知れませんが、やはり「よく遊び、よく学ぶ」ということが脳の健康維持には有効なんだなぁって改めて思います。

“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第5回)

前回までの4回にわたり、全国的に不足している“終の棲家”について、私どもが積極的に推進していきたいモデルについて書いてきた。つまり、『施設じゃないのに医療と介護が24時間ついてきて、本当に最後の最期まで暮らすことのできる賃貸集合住宅』である。

そしてこれを、『日常の診療活動を通して地域と信頼関係が出来上がっている医療経営者に事業主体となってもらい、想定する入居者たちのニーズの最大公約数を、地域相場の金額で提供して欲しい』のである。

その土地を知った医師が、地域の標準的な生活者の身の丈に合ったサービスを、その土地の流儀で提供していくこと。それによって、ごくごく限られた一部の富裕層だけにしか選択肢が与えられていない、現在の“終の棲家”市場環境を変革していかねばならないのだ。

今回は、「施設」と「賃貸集合住宅」というふたつの業態について、「経営の質」と「顧客満足(サービスの質)」の観点から比較しつつ総括してみたい。

 
施設ではなく、一般賃貸をお薦めする理由
病医院経営者のための“終の棲家”ビジネス成功の方程式と称して、ふたつの軸を設定して話を進めてきた。ひとつが、「経営の質=入居率×重篤度×サービス利用率」で、もうひとつが「顧客満足(サービスの質)=在宅医療×ケアマネジメント×リスクマネジメント」であった。

まず、「経営の質」について施設と賃貸集合住宅を比較すると、
①キャッシュインの観点からは、「施設が常に抱えている制度リスク」および「一般賃貸の経営の自由度と事業展開スピード」から賃貸集合住宅に軍配が上がる。わが国の超高齢化の速度を鑑みれば、一般賃貸形式の“終の棲家”がどんどん増えてこないと、最後の生活場所を確保できない高齢者が全国的に溢れてしまうだろう。

②キャッシュアウトの観点からは、「施設が強いられる固定人件費」によってやはり同様の評価となる。入居率が伸び悩んだ結果、人件費を筆頭とする高コストに汲々としている施設がいかに多いことか…。なお、あるクライアントで、80室規模の建物を計画した際に、特定施設にすべきか一般賃貸にすべきかをシミュレーションしたことがある。その結果、月々の収支予測は、「施設の場合:」、「賃貸の場合:」となったことを付記しておく。
 
次に、「顧客満足の質」について両者を比較すれば、何と言っても日常生活の自由度の点で議論の余地はないであろう。入居者側が施設側の運営規程やオペレーションに併せて起床したり、食事を摂ったり、入浴したりするのは、本来の生活スタイルではないはずだ。施設では外出や家族の宿泊など考えられないが、一般賃貸であれば自由である。

要するに「自宅」なわけで、何時まで寝ていようが、朝食を抜こうが、あくまでも入居者は自分のリズムで時間を過ごすことが可能である。それから、介護を中心とするサービスの質についてだが、先々週号で触れたように、両者の要員配置を比較すれば、施設ではよくて2:1、一般住宅であれば1:1。

一般賃貸の場合には、ケアプランに基づいて、当該入居者のために、当該時間に、当該職員が専任でサポートするわけだから、マンツーマンのサービスが原則なのだ。「施設」というネーミングに過度な期待を持ってしまう入居者や家族は多いものだが、実際に入ってみると、「一日じゅうテレビの前で放っておかれる」、「ナースコールを鳴らしてもなかなか来てくれない」などの不満やクレームが後を絶たない。「施設の方が安心」とは決して言えないのが実情なのである。

 
NPO二十四の瞳の『終の棲家事業プランニングセッション』
全5回にわたってお届けしてきた『病医院経営者のための“終の棲家”ビジネス成功の方程式』だが、予想以上に読者の関心が高いことがわかった。

私どもNPOでは、事業の構想から事業計画を策定するまでの実際のステップをご提供させていただいている。志は高いものの入居率を危惧されて躊躇される医者は多いが、そうした不安やリスクを低減しながら事業に着手するため、想定居室数の半分以上を確保してからGOする手法も紹介させていただいている。ご関心あれば、お気軽にご一報いただきたい。

“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第4回)


今回は、入居者側の視点に立って「顧客満足(生活の質)」について解説する。医療機関による高専賃が解禁された今、今後ますます、病医院経営者のもとには、「高専賃やりましょうよ」的な甘い誘いがかけられることだろう。しかし、是非とも、自分が不動産屋ではなく医療提供者であるということを忘れないでいただきたい。

アナタの社会的役割は、いま医療や介護を利用してくれている人たちのQOLを高め、幸せな熟年生活を応援してあげること。地域で生活する多くの高齢者たちが求めているのは、絢爛豪華で高額な住空間なんかではない。

ベストなのは、日常の診療活動を通して地域のニーズを十分に把握した医療経営者が事業主体となり、ニーズの最大公約数を地域相場の金額で提供することだろう。その土地を知った人間が、身の丈に合ったサービスを、その土地の流儀で提供していく。“終の棲家”ビジネスの本質はここにある。


顧客満足の大前提となる医療&介護サービスの質
さて、“終の棲家”ビジネス成功のもうひとつの要素だが、『顧客満足=在宅医療×ケアマネジメント×リスクマネジメント』と表すことができる。

①在宅医療:私どもNPOが応援するのは不動産業ではなく医療福祉ビジネスである。従って、立派な建物の建築コストを返済するために高額な入居金を取るようなビジネスモデルは忘れて欲しい。“終の棲家”ビジネスの家賃収入はあくまで副業と認識し、住宅事業で儲けようなどとは考えないことだ。家賃は地域の相場に準ずるというのが基本的な考え方である。

最大の収益源は在宅医療と居宅介護サービスとなるが、特に在宅医療は必須である。これがなければ“終の棲家”ビジネスは成り立たない。

在宅患家50人に対して医師1名の編成を組むこと。在宅医療未経験の医師であれば、最低3ヶ月はOJTを設けること。在宅医療支援診療所であろうとなかろうと、地域連携担当スタッフやMSWが後方支援病院を確実に確保すること。在宅患家には緊急連絡用のホットラインを設置すること。これらが在宅医療の質を維持するための最低条件であろう。

②ケアマネジメント:一方で、居宅介護サービスは地域の事業者との連携もないことはない。然るべき営業活動が必要となろうが、“終の棲家”を一括借りしてもらい貴院のリスクヘッジを図れる可能性もある。が、入居者にとって理想的なのは、(既に自社で介護事業を立上げているのであれば)医療も介護も貴院グループから一括提供することが一番だ。

私が携わったケースでは、病院の組織である在宅医療部門と、グループ会社在籍のケアマネジャーおよび訪問介護部門を物理的に同じ事務所に配置することで、チームワークと情報共有の向上を絶えず意識させていた。試行錯誤の末、チームメンバーの顔が見える位置関係が不可欠であると判断した経緯がある。


③リスクマネジメント:実際に運営してみると、医療・介護・食事に次いでトランザクションが多いのは、行政手続、地域の他診療科、年金、生活資金、資産管理、遺産相続、成年後見制度、葬儀、地域の諸々のサービス提供者などについての相談と問合せである。入居者のみならず、遠方の家族からもコンタクトしてくる。長生きしなければならないがゆえのリスク管理といったところである。

これに対応するには、管理スタッフの技量が重要である。単なるパートで愛想がいいというだけでは不十分だ。少なくとも医療と福祉の専門知識を持って、ホテルのコンシェルジュ的な役割を担える人材を管理室に配置したいところだ。

私の経験では、社会福祉士や市役所OBなどであれば一定以上の評価を得られると思う。多くの場合、入居者や家族の第一窓口となるのが管理スタッフである。貴院の外来受付と同様、フロントとしての重要な位置づけであり、このサービスレベルをあげることで然るべき管理料を設定してもいいくらいだ。


成功確率をさらに高めるためのチェックポイント
さいごに、“終の棲家”ビジネスを成功させる上で見落とされがちな2点について触れておきたい。まずは、医療・介護・リスク管理支援以外の周辺サービスについては、スペシャルではなく普通を貫くこと。部屋の広さ食事も、食堂やホールや庭等の共用スペースも特別である必要はない。ほとんどの入居者は、もともとそんな豪華な家には住んでいない。今までと同等レベルで十分なわけで、このあたりを勘違いすると入居者の自己負担が嵩む結果を招いてしまう。 

もうひとつが、入居契約前に期待させすぎないこと。できないことはできないと明確に伝えること、できれば、責任を負えない想定事故について文書化して手渡すくらいが望ましい。入居者獲得を焦ってついついセールス口上になってしまうスタッフが多いが、これは危険。調子よく応じてしまうほど入居してからの満足度は下がる。

象徴的なのが、「施設」と「住宅」という言葉を比べたときに、「施設」に多大な期待を持ってしまう入居者や家族が圧倒的に多いこと。で、実際に入ってみると一日じゅう放っておかれる、医療サポートが手薄、ナースコールを鳴らしてもなかなか来てくれない、食事がまずい・・・といった不満のオンパレード。

これすべて、「施設」なのだから設備もサービスも要員配置も、一般集合住宅よりは手厚いだろうという顧客側の先入観がなせる技だ。要員配置を比較すれば、実際のところ、施設ではよくて2:1、一般住宅であれば1:1(ケアプランに基づいて、当該入居者のために、当該時間に、当該職員が専任でサポートするため)。「施設の方が安心」とは決して言えないのである。


あるべき終の棲家とは、『施設じゃないのに医療と介護が24時間ついてきて、本当に最後の最期まで暮らすことのできる賃貸集合住宅』である。

次回は、「経営の質」と「顧客満足(サービスの質)」の観点から『施設vs.賃貸集合住宅』を比較しつつ、病医院経営者のための“終の棲家”ビジネス成功の方程式を総括したい。

“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第3回)


前回は、“終の棲家”ビジネスを成功させるための条件のひとつ、「経営の質」を確保するための3つの要素(入居率、重篤度、サービス利用率)についてお話した。

今回は、今後の“終の棲家”モデルとなり得る画期的な実例をお届けしようと思う。東京都葛飾区で、医療法人明正会(近藤正明理事長)が展開する高専賃ココチケアは、JR総武線「新小岩」から徒歩10分、中川にかかる平和橋のたもとで、まさに普通の街並みに溶け込んで建っていた・・・。


元教員であるトップがふつうの高齢者のために作った生活場所
近藤理事長は、1973(昭和48)年、東海大学体育学部を卒業後、学校法人安田学園教諭に就任。同学園柔道部の監督時代、選手のケガをその場で治療したいとの思いを契機に、教育者から医療の道へ踏み出した異色の医療経営者だ。03年8月、医療法人社団明正会理事長就任。現在に至っている。

同氏は、「数百万円から数千万円もする入居金を前払いで支払わせる有料老人ホームのビジネススキームがどうしても納得できなかった」と語気を強める。たしかに、入居後まもなく亡くなり入居金の返却を求めても返ってこないなどというトラブルが今でもかなりある。

また一方で、従来の有料老人ホームには入居者のプライバシーもセキュリティもあったものではないというように、生活するには決して快適な環境とは言えないところも多かった。05年に賃貸方式の高専賃が制度化されると、近藤理事長は、入居者の経済負担も少なく、一般賃貸住宅ゆえプライバシーも確保され、かつクリニックなどの併設により、医療・介護の依存度が高いひとでも安心して入居できる高齢者住宅の実現を目指して動き出したのだ。


地域貢献意欲の高い地主との出会いからうまれたサブリース方式

07年4月に開設された高専賃「ココチケア」は、下町風情の漂う都内好立地に位置するだけに建設資金などの初期投資が気にかかるところだ。その反面、家賃などは低く設定されている。

果たして採算性はどうなのか。「地主さんに約3億円で建物を建ててもらい、当社が賃借する形を取った。その建設費用などは、家賃相殺で20年償却となる計画だ。1室あたりの家賃平均は8万円。30室で240万円(入居率100%)で、入居率70%で収支がトントンになる設定」だと言う。

また、1階部分の医療スペースと9台収容できる駐車場については、株式会社ココチケアが医療法人社団明正会に地域相場の金額(約150万円)で貸しているそうだ。こうした仕組みによって、入居者の家賃を可能な限り抑えても十分経営が成り立っているわけだ。


医療介護付き高専賃こそが多くの高齢者の受け皿となる
これまでの高専賃の主流は医療や介護の機能がないもので、ある程度のことは自力でできないと最後まで暮らすことは難しかった。介護事業者が経営主体となっているモデルでも、日常的および緊急時の医療サポートが脆弱で本当の意味で“終の棲家”とは呼べなかった。

この市場に医療機関が参入してくることの意味は大きい。人間は貧富の差なく、最終的には医療を必要とする。建物や居室や食事がいくら立派でも、医療と介護のセイフティネットがなければ話にならない。経営側の最大の関心事である収支についてもココチケアは十分に評価できるモデルである。近藤理事長の話から、医療法人が高専賃を事業化するメリットを整理してみよう。


医療法人による高専賃事業化のメリット
①グループ全体の収益増:家賃収入を確保できることに加え、入居者に医療や介護サービス(自社で介護を提供する場合)できる。つまり、医療部門や介護部門からすると新規顧客を効率的に組織化できることになる。

②院外ベッドの確保:高専賃は医療法の病床規制対象外であるため、居室数を自由に設定できる。つまり、居室が病床の代替手段となるわけだ。(ただし、介護付き老人ホームは自治体の総量規制対象で、居室数を自由に設定できない)

③地域でのブランド力アップ:ブランドとはファンの数である。高専賃で看取りまで行う姿勢を明確化することで、老い先への不安を抱える地域住民の好感度はまちがいなく上昇するはずだ。実は、これが事業の継続安定には重要。

④事業展開スピード:高専賃は行政の制度上の縛りがないため、経営の自由度や柔軟性が高い。

高専賃事業化における注意点
①あくまで副業と捉え、住宅事業で儲けようと考えないこと。入居金や家賃で高い収益を上げることを考えず、本来業務である医療・介護サービスで収益を確保する。(入居者の確保に重点を置く)

②入居者に対する医療介護サービスの提供効率を考え、医療機関や介護事業所と高齢者住宅は同一建物あるいは近隣に位置していることが理想。

③土地建物は所有せず、地主に建ててもらい一括借り上げを基本とする。

④入居者に施設と賃貸の違いを理解させ、過度の期待を持たせないこと。ただし、より良いサービスの追求を怠ってはならない。

⑤医療・介護の専門職以上に重要となるのが管理人。入居者や家族が日常的に頻繁に接触し、かつ緊急時に最初に接触するのが管理人である。それだけに、ホテルのコンシェルジュ的な役割が求められる。そんじょそこいらの主婦のパートで賄うようなことがあってはならない。

“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第2回)


前回は、国民年金のみに依存して暮らしているシニア層に“終の棲家”を提供しようという病医院経営者に期待すると書いた。この層の受け皿を実現できるのは病医院経営者しかいないと断言してもいい。その意味では、最近の高齢者専用賃貸住宅(以下、高専賃)ブームは歓迎すべきかも知れない。

しかしながら、医療法人による高専賃が解禁されたものの、今日現在、まだまだ病医院経営者が自ら運営する高専賃は数えるほどしかない。市場を牽引しているのは、住宅メーカーや不動産等の建物系企業やコンサルティング会社であろうか。

だが、自分の親を入れる“終の棲家”をイメージすれば、やはり、日常的な医療も、万一の場合のセイフティーネットも欠かせない。だからこそ、医療機関のみなさんに事業主体になって欲しいのだ。

入居者の立場から言えば、「建てたら終わり」という人が作ったものと、「入ってもらってからもサービスを提供し続ける」人が作ったものと、どちらに自分の大切な親を入れたいかということ。これはもう論を待たない。


先行物件のアキレス腱
さて、現在の日本においてもっとも必要とされている『国民年金生活者向けの“終の棲家”』と言えるものは、全国を見てもほとんど存在しない。手元にある新聞・雑誌を眺めても、どれもこれも国民全体のコンマ数%を対象としているとしか思えない高額物件ばかりである。

事業主体は、ゼネコン、建設・住宅系企業が多い。彼らの多くは建てるのが仕事であるから、立派なハードウェアをこしらえてキャッシュが手に入れば大成功だ。困るのは、運営を維持していかねばならない医療や介護サービスを担う会社である。地域によっては周囲の景観から浮いてしまいかねないような豪華な施設である。

いわゆる開設景気が、百貨店と同様で1年持てばいい方だ。居室当たりの契約料が高い上、そもそも資産家と呼ばれる人たち自体が少ないわけだから入居者確保は大変である。金融機関への毎月の返済は待ったなしだから、稼働率8割が維持できないと悲惨な結果が待っている。知った顔の職員がひとりふたり辞めていったら、経営状態は深刻だ。

地域貢献意欲の高い土地オーナーも地元の医師も、そして、一括借りして運営に当たる介護事業者も、できたらあまりきらびやかな話には乗らない方がいい。目指すのは決して不動産ビジネスではないのだから。

ところが実際には、事業計画を検討する過程で、その土地柄も、医療も、介護も知らない人たちのビューティフルな話に乗っかってしまう医療経営者が多い。こうした悲劇を未然に防ぐために、私どもが一役買えればと願っているわけだ。


“終の棲家”ビジネス成功の方程式
前回お伝えしたように、“終の棲家”ビジネスは「経営の質」と「顧客満足」の両面から考えなければならない。まずは「経営の質」だが、『経営の質=入居率×重篤度×サービス利用率』と表すことができる。

①入居率:多くの先行物件を調べてみると、なんだかんだ言ってもやはり入居者確保が悩みのタネだ。しかし、病医院経営者が事業主体となる場合には悲観する必要はない。それは、診察室でリサーチなり営業なりができるからだ。患者や地域の人たちと良好な関係ができていれば、向こうから勝手にニーズやウォンツを喋ってくれるものだ。

もちろん、医師のみならず看護師以下のスタッフすべてが情報収集源となることは言うまでもない。私どもでは、基礎計画の段階で、想定居室数の半分以上、具体的な入居者を特定できることが事業成功の大前提とご指導させていただいている。


②重篤度:竣工までのマーケティング活動でもっとも重要なのが、居室数以上の申込者を確保することである。目標としては、居室数の1.5倍。理由は、要介護度・障害度(障害者手帳の級数)・医療必要度を勘案しながら入居者をピックアップするため。“終の棲家”を舞台としたビジネスの収益源は、医療と介護と家賃である。然るに、在宅医療と居宅介護の両サービスの利用量が多い人に入居してもらうのが望ましいことは明らかである。

③サービス利用率:サービス利用率は、ケアマネジャーがプランしたサービスを、入居者がそのまま受け入れて契約してくれることが理想である。これは、事業主体である病医院のトップ・医師・ケアマネジャー・看護師らと入居者の信頼関係に依存する。

経験から言うと、①で解説した、診察を通して入居に至った人たちの介護サービス利用率はまず90%を下回らない。

 
そして、重要なのは①②③が足し算ではなく掛け算であるという点を付け加えておく。

次回は、“終の棲家”ビジネス成功のもうひとつの要素である『顧客満足=在宅医療×ケアマネジメント×リスクマネジメント』についてお話しする。

これはもう、ゼネコンや建物系企業では、仮に連携する医療・介護事業者を見つけてきたとしても、絶対に実現できない部分である。言い換えれば、「経営の質」に対して、「サービスの質」となるキーファクターなのだ。

“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第1回)

わがNPOが認証を受けて、ちょうど丸4年が経過した。地域の高齢者団体や民生委員等を中心に、利用者視点でさまざまな情報収集や市場調査を行ってきたが、今回のテーマ“終の棲家”について再認識させられたのが『標準的な高齢者のための最後の生活場所がない』ということだ。この、わが国最大の課題解決の具体的方法論を5回にわたってお届けしたい。

仕掛人は必ず富裕層モデルから入る

まず前提条件を述べる。標準的な高齢者とは、国民年金だけに依存して生活している高齢者と定義する。地域医療でプライマリーケアを担っている医師であれば、日常的に診察室で向かい合っている高齢患者の8割がこの層であろう。巷には“終の棲家”を標榜する多くの物件が存在する。

現時点で全国に50万戸程度と推測される。が、そのほとんどが国民の1%すら該当しない富裕層を対象としたものである。医療や福祉の専門誌に紹介されている“すばらしい物件”は、すばらしいがゆえに入居者側に多大な経済負担を強いている。入居率が上がらず運営を担う企業は苦闘している。その頃、“建てたひと”(ゼネコンや建築系企業等のデベロッパー)は次の獲物の料理にかかっている


地域医療ドクターに期待する大衆層モデル
病医院経営者には、日頃交流している地域の標準的な生活者たちのための“終の棲家”を是非とも作って欲しい。具体的に言うと、『医療経営者が運営する、基礎年金暮らしの人でも検討の土俵に乗るような価格帯の“終の棲家”を、入居者にとって住み慣れた地域に作って欲しい』のだ。そして、これを事業として成功させることができるのは病医院経営者以外にはいないと思っている。

ここで言う“成功”とは、採算が取れるという意味での「経営の質」と、入居者が納得するという意味での「顧客満足(生活の質)」の両立を指す。全国的に話題の物件を実際に見てみると、事業として“成功”している物件にはなかなかお目にかかれないものだ。

 
そこで、『“終の棲家”ビジネス成功の方程式』の回答を先に示しておこう。まずは“成功”のひとつの側面である「経営の質」だが、『経営の質=入居率×重篤度×サービス利用率』となる。“成功”のもうひとつの要素である「顧客満足度(生活の質)」は、『顧客満足=在宅医療×ケアマネジメント×リスクマネジメント』となる。

そして、成功確率をさらに高めるための要因が2つ。「ごくごく普通のサービス内容を貫く」ことと、入居者や家族の「事前期待を下げる」ことである。

罪作りなゼネコンやマスコミのアプローチ
これまでの“終の棲家”ビジネスの流れを見ると、特養がダメなら、やれ有料老人ホームだ、特定施設だ、今度は高専賃だ…といった具合に、業態や建物の呼称から火がつき、その度に病医院経営者は新しい概念について学ぶためにセミナーに参加したり、事務長に採算の見通しをシミュレーションさせたりを繰り返してきた。

実にプロダクトアウトな発想で、事業はハードから入っては成功確率が低い。どうも、ゼネコンや建物系企業、マスコミ、コンサル等が煽ったブームに踊らされてしまって、自分の患者や地域のために何を提供すべきなのかという、肝心のソフトの部分が置き去りになっている感が否めない。

本来、ソフトが明確になれば、それを具現化するのに相応しい業態が自ずと決まっていくものだ。結局はトップである病医院経営者が何をやりたいのかということであって、この業態でないと利益が出ないなんてことはない。そこを創意工夫するのが経営というものではないだろうか。


出発点は、誰がための“終の棲家”?
例えばホテルなら、シティホテルもあれば、ビジネスホテルやカプセルホテルもある。リゾートホテルもあれば、旅館もあり、コテージやコンドミニアムもあれば貸別荘もある。確かに時代的に旬のものというのはあるかも知れないが、もっとも重要なのは、アナタがやろうとしている事業は誰に喜ばれたいのか、誰をエンタテインするのかということである。

診察を通じて、「こんな人たちの老い先の不安を減らしてあげたいな」と思えるような患者たち。それこそがアナタが着手する「終の棲家」の具体的な入居者像になるわけだ。私どもNPOは、国民年金のみに依存して暮らしているシニア層に終の棲家を提供してくれる病医院経営者を積極的に応援していきたいと考えている。

個人金融資産が国民全体で1400兆円あろうが、シニアの預貯金平均が2000万円以上あろうが、現場感覚からすれば、最低限の基礎年金に依存しているひとが8割。パイとしてもっとも大きなこの層に最終的な生活の場を提供できれば、特養でも老健でもホームでも高専賃でも、別に、そんな名称はどうだっていいのである。

この点に気づいてもらった上で、現業の延長線上に位置づけられる“終の棲家”ビジネスの可能性について、次回以降お届けしていきたい。

韓国にも引けをとる日本の医療


韓国の病医院のオペレーションは予想以上に進んでいる。韓国の主要病院は徹底したデジタルホスピタル志向でフィルムレス、ペーパーレスを実現している。

レントゲン写真、心電図などは、コンピューターによって集中管理、データベース化されている。入院記録、看護記録、カルテなども一切紙は使わない。

患者側も自宅のパソコンから自身のカルテを照会できることはもちろん、携帯電話から診療の予約をすることも可能である。日本が躓いた電子カルテの仕様まで標準化されている。ITによるネットワーク化が整備されているため、病診連携、病病連携も極めてスムーズだ。

ただし、勤務医にとって頭の痛い問題もある。「経営から人事管理まですべてIT化されているので、医師ごとの売上や患者に対する診察時間のかけ方などが記録として残ってしまう。気を抜くひまがない」というのがそれである。

つまり、個々の医師の生産性が一目瞭然になり、当然、給料の査定にも跳ね返ってくるわけである。いずれにせよ、病院のデジタル化で経営の合理化がかなり進んでいることはまちがいない。


日本と比べて病院の合理化が進んでいる理由はなんなのか。考えるほどに、韓国の国民性や国としての戦略の違いに行き着かざるを得ない。

韓国にしても、日本と同様、高齢化の到来と疾病構造の変化(感染症から生活習慣病へ)への対応が最大の課題。高齢化し、慢性的な生活習慣病が増加するなかで、急速に膨れ上がる医療費を既存システムで対応することはできない。韓国では今、どうやって利用者側の支払能力を上げるかということについて盛んに検討が行われている。日本とは大違いである。


世界一の長寿国となった日本だが、その医療制度は時代の変化に対応できていない。医療費高騰に対し、診療報酬の切り下げや病床の規制・廃止によって、「いかに医療費を下げるか」というアプローチ一辺倒だ。

韓国のように「いかに支払能力を高めるか」については何の議論もなされず、混合医療解禁にちょっとでも触れると、米国映画“シッコ”の例を持ち出して、やれ「不平等」だの「弱者切り捨て」だのと、それ以上の検討に踏み込めない。

韓国の病院の経営母体としてもっとも多いのが営利企業。患者はどこでも好きな病院に行って必要な医療サービスを手にすることができる。しかし、病院によって価格や自己負担金額は異なる。

病院側の経営努力や利用側の選択肢も考慮しながら、国からの医療財源と個人の財源(貯蓄)を視野に入れて解決策を探るという発想の転換をしない限り、わが国の医療制度改革に出口はないのではないか。遺憾ながら、国の経営も病院の経営も、韓国に学ぶべき点は多そうだ。

高齢者住宅ビジネス事情

高齢者住宅のビジネスの歴史を見ると、特養がダメなら、やれ有料老人ホームだ、特定施設だ、今度は高専賃だ・・・といった具合に、実に発想がプロダクトアウトだ。事業はハードから入っては成功確率が低い。
 
誤解を恐れずに言えば、どうも、マスコミ、コンサル、不動産屋、住宅屋が作ったブームに踊らされてしまって、患者さんのために何を提供すべきなのかというソフトが置き去りになっている感が否めない。
 
例えば、ホテルならシティホテルもあれば、私みたいにしがないビジネスマン用のビジネスホテルやカプセルホテルもある。リゾートホテルもあれば、旅館もあり、コテージやコンドミニアムもあれば貸別荘もある。

結局はトップが何をやりたいのかということであって、この業態でないと利益が出ないなんてことはない。そこを創意工夫するのが経営ということではないだろうか。 

確かに時代的に旬のものというのはあるかも知れない。小売業で言えば、パパママストアから始まって、百貨店、量販店、CVS、専門店ときた。これは商品という切り口から見た業態の変遷だが、いまの時代は顧客の切り口から見た専門化が重要だろう。

要は、誰に喜ばれたいのか、誰をエンタテインするのかということ。で、日本の都市部に必要なのは、国民年金のみに依存して生活しているシニア層向けの終の棲家である。

事業の評価軸としては、『収益の最大化(経営の質)』と『顧客満足の最大化(経済負担まで含めた生活の質)』。最終的に制度リスクを低減しようとすると、『収益の最大化(経営の質)』を実現するには、一切の縛りのない一般賃貸に行き着くのである。

で、医療と介護と賃料のトリプルインカムを実現する。これは、どう転んでも医療機関にしか実現できない。事業目的が円滑に達成できるのであれば、特養でも老健でもホームでも高専賃でも、別に、そんな名称はどうだっていい。

 

こういった層の受け皿を増やしていくという意味では、数年前からの出回り始めた高専賃(高齢者専用賃貸住宅)は歓迎すべきかもしれない。ただ、自分の親を入れる「終の棲家」をイメージすれば、やはり、日常的な医療も、万一の場合のセイフティーネットも欠かせない。だから、医療機関のみなさんに事業主体になって欲しい。


大手住宅メーカーと話を進めていくと、『収益の最大化』では一致するのですが、『顧客満足の最大化』でつまづくことになる。つまり、顧客満足の要である、医者なり医療機関を確保したり、啓蒙したりする時間を割くことに辛抱できない。それよりも、どうしても事業展開のスピートを重視してしまうわけだ。ここが営利企業のやるせないところ。
 
利用者の立場から言えば、「立てたら終わり」というひとが作ったものと、「入ってもらってからもサービスを提供し続ける」ひとが作ったものと、どちらに自分の大切な親を入れたいかということ。

が、残念ながら決断する医者が少ないから、結局、立てたら終わりというひと(営利企業)が作ったものが席巻しているのがわが国の現状。たまに、よし、やろう!という医者がいても、コンサルやゼネコンは、自分たちの成果が早く挙がる特定だのホームだのグループホームだのを強硬に推奨してきた。で、勉強してない医者たちは言いなりになってしまい、もっと価値の高いモデルがあるのに変な方向に行っちゃう。

 
一方、『顧客満足の最大化(経済負担まで含めた生活の質)』を追求すれば、「施設じゃないのに医療と介護と食事が付いてくる・・・」そんなモデルが求められて当然だる。つまり、医療に代表される老い先のリスクを最小限にしながらも、入居される方個々の生活の自由度を尊重する。

これが実現できるのは、現在の法制度下では医者しかいない。

« 前へ | 次へ »


NPO法人 二十四の瞳
医療、介護、福祉のことを社会福祉士に相談できるNPO「二十四の瞳」
(正式名称:市民のための医療と福祉の情報公開を推進する会)
お問い合わせ 042-338-1882