“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第1回)
仕掛人は必ず富裕層モデルから入る
まず前提条件を述べる。標準的な高齢者とは、国民年金だけに依存して生活している高齢者と定義する。地域医療でプライマリーケアを担っている医師であれば、日常的に診察室で向かい合っている高齢患者の8割がこの層であろう。巷には“終の棲家”を標榜する多くの物件が存在する。
現時点で全国に50万戸程度と推測される。が、そのほとんどが国民の1%すら該当しない富裕層を対象としたものである。医療や福祉の専門誌に紹介されている“すばらしい物件”は、すばらしいがゆえに入居者側に多大な経済負担を強いている。入居率が上がらず運営を担う企業は苦闘している。その頃、“建てたひと”(ゼネコンや建築系企業等のデベロッパー)は次の獲物の料理にかかっている。
地域医療ドクターに期待する大衆層モデル
ここで言う“成功”とは、採算が取れるという意味での「経営の質」と、入居者が納得するという意味での「顧客満足(生活の質)」の両立を指す。全国的に話題の物件を実際に見てみると、事業として“成功”している物件にはなかなかお目にかかれないものだ。
そこで、『“終の棲家”ビジネス成功の方程式』の回答を先に示しておこう。まずは“成功”のひとつの側面である「経営の質」だが、『経営の質=入居率×重篤度×サービス利用率』となる。“成功”のもうひとつの要素である「顧客満足度(生活の質)」は、『顧客満足=在宅医療×ケアマネジメント×リスクマネジメント』となる。
そして、成功確率をさらに高めるための要因が2つ。「ごくごく普通のサービス内容を貫く」ことと、入居者や家族の「事前期待を下げる」ことである。
これまでの“終の棲家”ビジネスの流れを見ると、特養がダメなら、やれ有料老人ホームだ、特定施設だ、今度は高専賃だ…といった具合に、業態や建物の呼称から火がつき、その度に病医院経営者は新しい概念について学ぶためにセミナーに参加したり、事務長に採算の見通しをシミュレーションさせたりを繰り返してきた。
実にプロダクトアウトな発想で、事業はハードから入っては成功確率が低い。どうも、ゼネコンや建物系企業、マスコミ、コンサル等が煽ったブームに踊らされてしまって、自分の患者や地域のために何を提供すべきなのかという、肝心のソフトの部分が置き去りになっている感が否めない。
本来、ソフトが明確になれば、それを具現化するのに相応しい業態が自ずと決まっていくものだ。結局はトップである病医院経営者が何をやりたいのかということであって、この業態でないと利益が出ないなんてことはない。そこを創意工夫するのが経営というものではないだろうか。
出発点は、誰がための“終の棲家”?
診察を通じて、「こんな人たちの老い先の不安を減らしてあげたいな」と思えるような患者たち。それこそがアナタが着手する「終の棲家」の具体的な入居者像になるわけだ。私どもNPO
は、国民年金のみに依存して暮らしているシニア層に終の棲家を提供してくれる病医院経営者を積極的に応援していきたいと考えている。個人金融資産が国民全体で1400兆円あろうが、シニアの預貯金平均が2000万円以上あろうが、現場感覚からすれば、最低限の基礎年金に依存しているひとが8割。パイとしてもっとも大きなこの層に最終的な生活の場を提供できれば、特養でも老健でもホームでも高専賃でも、別に、そんな名称はどうだっていいのである。
この点に気づいてもらった上で、現業の延長線上に位置づけられる“終の棲家”ビジネスの可能性について、次回以降お届けしていきたい。
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