敷居が高い既存の相談窓口

 私は2001年春から、社会福祉士として地方自治体、医療機関、福祉事務所等で各地域の方々の相談業務に当ってきた。私流に「お困りごと何でも相談」と称してきたが、まさしく何でもあり、であった。
 
 その範囲たるや、医療、福祉、介護、生活費、遺産相続、遺言、葬儀、成年後見、悪徳商法、転職、起業、金銭トラブル、話し相手、離婚、家庭内暴力、各種手続き代行、等々・・・。

 
 ところで、社会福祉士という国家資格は、世間的には一部のひとを除いて認知度は低いが、以下のように定義される、一応はプロフェッショナルである。
 
 「社会福祉士とは、専門的知識及び技術をもって、身体上もしくは精神上の障害があること、または環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導その他の援助を行うことを業とする者」(社会福祉士及び介護福祉士法)
 
 私は、福祉という領域を学び、知れば知る程に、高齢者や障害者の相談に乗って差し上げるためには、医療を中心とする福祉の周辺分野についても見識を深めねば価値がないことに気づいた。

 そして、ある相談内容に対して、そのものズバリの問題解決を提示できなかったとしても、問題解決の糸口や手順、さらには効果的なコンタクト先を提示して差し上げるだけでも、相談者の不安は低減できるのではないかと考え、実践してきた。結論的には、この仮説で(感覚的に)九割の相談には対処できる。


 で、もうひとつ重要なことが、相談を受ける前提条件として、相談者が相談しやすい環境を整備することだ。これは極めて重要なことだから、しつこく言っておく。
 
 相談者が相談しやすい環境を整備すること。
 相談者が相談しやすい環境を整備すること。
 相談者が相談しやすい環境を整備すること。 
 
 世の中にある相談機関は、概して相談しづらいものだ。例えば、具体的な問題が表面化する前の段階で、法律事務所や会計事務所に、わざわざ高い相談料を払ってまで相談に出向いた経験があるだろうか。行政の各種専門相談に行った経験のあるひとはいるだろうか。地域の公民館で毎週開かれている民生委員が行う福祉相談所のドアを叩いた経験があるだろうか。
 
 私は行ったことがないし、行った経験のある知人も見当たらない。行政の施策については、そんなのあったんだ、という反応が殆どである。モノは試しで、近所の公民館に行ってみた。地元の民生委員の方々は、第一線の頃、教育や福祉の分野で功労のあったひとたちらしく、厳格そうで、とっつきにくい印象がある。何かを相談したらお説教されそうなムードがあった。ひとことで言うなら、仁丹とか龍角散みたいな雰囲気がある。もともと顔なじみだったり、同窓生だったりしないかぎり、それまでにまったく接点のなかったひとたちが気軽に相談できる感じがしないのだ。
 
 2004年に、首都圏の老舗百貨店の催しで「シニアのための医療福祉相談会」というのをやったところ、4日間で138名の相談者が訪れた。私はそのとき思った。専門性の高い分野こそ、デパートのような誰でもが立ち寄れる場所に相談窓口をいつか常設できれば便利だろうなぁと。
 
 では実際のところ、高齢者だけの世帯でなにか不安なことや困ったことがあったら、みんなどうしているのだろうか。市役所に尋ねるのも億劫だし、電話帳を開いても面倒だし、結局仲のいい友人にグチってみると、その友人もよくわからないから、関係ない世間話をして電話を切っちゃう。

 で、まぁ、まだそんな緊急のことでもないしと、タカをくくって不安に蓋をして束の間忘れてしまうのだ。そして、いざ、本当に困った時に、たまたま擦り寄ってきた専門家もどきにいいように丸め込まれてしまう。五年間に及ぶ相談業務をこなしてきた今の私には、そんな流れが手に取るようにわかってしまう。


NPO法人 二十四の瞳
医療、介護、福祉のことを社会福祉士に相談できるNPO「二十四の瞳」
(正式名称:市民のための医療と福祉の情報公開を推進する会)
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