老人と海

 最近、書棚を整理していてヘミングウェイの『老人と海』を手に取った。
 
  老人は戦った。
 
  三日三晩、孤独の闇の中で戦った。
 
  巨大なマグロを倒すため。
 
  今度はそれを守るため、鮫の群れと戦った。
 
  ふたつの孤独な戦いの結果、そこには何も残らなかった。
 
  そして孤独な老人は、ライオンの夢を見ながら永遠の眠りにつく。
 
 この長編は、「The old man was dreaming about the lions」という一文で幕を下ろす。中学生だった私は、恐ろしいまでの孤独にも負けない、老いぼれた漁師の「潔さ」に泣きじゃくったものだ。
 
 みなさんは、この本、読んだことがあるだろうか。1952年に出版された同書は世界的なベストセラーとなり、後にヘミングウェイは、ノーベル文学賞を受賞した。
 
  主人公の人生を象徴する二つの闘い。
  カジキマグロとの闘いは若い頃の人生。
  鮫との闘いは、年老いた現在の姿。
  鮫に食い荒らされたカジキマグロが老人とダブる。
  そして、港に着いた老人を迎える少年の優しさが感動を誘う。
  誰も頼らない「潔さ」。
  すべてを自己解決する「潔さ」。
  孤独に泣き言をいわない「潔さ」。
  そこに垣間見える、打ちのめされても決してあきらめない人間の尊厳。  


 作者であるヘミングウェイは、1899年、シカゴ生まれ。父は狩猟と釣りを好んだ医師、母は芸術好きの女性であった。第一次世界大戦中にイタリアに渡り、対オーストリア戦線で負傷。ミラノの病院で赤十字の看護婦アグネスにひと目惚れする。が、8歳年上のアグネスは彼の求愛を受け入れなかった。 
 
 以降の彼は、束の間の結婚と離婚をくり返す。アグネスとの経験が、その後の生き方に大きな影を落とすことになった。『老人と海』同様、人生の孤独はヘミングウェイを苦しめた。そして、1961年、アイダホ州の自宅で猟銃を口に当て自ら命を絶った。
 
 この年の米国はケネディが大統領に就任。キューバ危機が迫っていた。キューバは『老人と海』の舞台となった地だ。彼自身も当時暮らしていた同地から、退去せざるを得なくなった直後のことだった。


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