メタボブームに騙されるな
先日、40代女性から、「主人(47歳)が主治医からメタボリック体型を理由に、コレステロールを調整する薬を薦められているのですが…」という相談がありました。念のため、2008年4月から始まった世紀の愚作、メタボの診断基準を導入した特定健診制度について説明しておきましょう。これは、40歳から74歳までの人を対象に、「男性で腹囲85センチ以上、女性で90センチ以上」だった場合、生活習慣改善の指導が行われ、自己責任で腹囲を減らさねばならないというものです。高騰する医療費を抑制するために、国民ひとりひとりに病気予防の意識を徹底しようという国策なのです。
厚労省はこのメタボ狩りで医療費2兆円の削減を狙うとしていましたが、それはどうも建前のような気がしてなりません。一連のメタボリック対策は循環器病予防が目的という点が妙にひっかかるのです。日本人の死因トップであるがんの予防ではなく心筋梗塞等の循環器病であることを考えると、どうしても製薬会社の影がちらついて仕方がない。なぜかというと、がんよりも循環器病のほうが薬を売りやすいからです。
これらを踏まえて、相談者にはこう回答しました。「もしもご主人が超肥満体型でもなく、また何の自覚症状もないということであれば安直に薬に手を出すべきではありません」と。みなさん、いいですか。騙されてはいけません。太り気味の男性がみな薬漬けになったら、それこそ製薬会社は大儲けです。その結果、国民医療費の抑制なんぞ絵に描いた餅で、逆に医療費がさらに嵩むことは子どもでもわかるはずです。
ところで、驚くことに厚労省の寿命調査では、特定健診が制度化される前の時点で、「日本人は小太り体形がいちばん長生きだ」と報告されています。その一方で、腹をへこませないと循環器病になるぞと脅しをかける厚労省の厚顔無恥な言動を、私は理解することができないし許せません。この件については、医師の間でさえ「今回のメタボ基準値の設定にはなんら根拠がない」と囁かれているくらいなのです。