ほとんどの検診はムダである
さて、検診全般のことを考えたとき、毎年1兆円ずつ医療費が増えていっている現状から判断すると、たぶん、検診一般の効果は上がっていないと思われます。定期的に検診を受けることを習慣化して病気が減るのであれば検診を受ける意味もあります。検診結果に「このままの状態が続けば○○の病気になります」等と書いてあり、「あなたは○○と○○をして○○の病気を回避しましょう」等のアドバイスや改善のための具体的な方法でも記載されているのであれば患者さんにとってメリットもあるのでしょうが、何もないのであれば定期的に検査を受ける意味はありません。
これまでわが国の検診というのは、検査して数値を知らせるだけというものでした。ところが最近の検診はもっとタチが悪くて、グレーゾーンを広げて要精密検査の人を増やしたり、日常生活に支障のないレベルの些細な出来物を無理やり見つけて摘出手術に誘導したりするような商売のやり方が散見されます。
しかし、それが行き過ぎると、日常生活になんの支障もないレベルの些細な異常所見を強調して病気や病人を作りだすことにもなりかねません。
こんなことをしていたのでは、検診により病気が減るどころか、むしろ医療費は年々増加し、病人が増えていくのは当たり前です。なぜかと言うと、こういうことをしていると、検査結果によってストレスを覚えたり、痛くも痒くもなかった身体にメスを入れることで術後の生活に支障が出たりして、本当に病気になってしまう人たちが増えてしまうからです。
このような摩訶不思議な検診が全国津々浦々、国家的規模で推進されているわけですから、今日の医療財政の破綻は当然の結果と考えられます。健診や検診には、私たちが汗を流して働いて納めた税金が使われています。それでも効果があって、国民の病気が減り、健康なひとがどんどん増えているならいいでしょう。これまで全国の自治体では、毎年の健康診断で国民が健康になったかどうかをまったく検証しないできました。その効果を測定することもなく、さらにここ数年ではがん検診が強力に推進されています。
実は、先日の米国における乳がん報道の他にも、検診の有効性について否定する公的なレポートが日本に存在しています。1998年に当時の厚生省・公衆衛生審議会が、「子宮体がん、肺がん、乳がんは、現在の検診では実施してもなくても、がんの発見率は変わらない」と報告しています。また、過去の新聞記事を拾ってみると、「大腸がん検診の有効性の評価を行う厚生労働省の研究班は、集団検診での内視鏡・エックス線検査や直腸指診に否定的な見解を示し、自治体が実施する集団検診や職場検診など集団対象には奨められない」(2005年3月23日の朝日新聞)という記事もあります。
にもかかわらず、自治体の広報では有効性が謳われています。いまも自治体や職場での集団検診には必ずといってエックス線での検査があるのはどうしたことでしょうか。厚労省が否定的な見解を示したものを職場や市の広報で推奨しているというのは実に不可解なことだとは思いませんか?
受診者は時間とお金を無駄にするだけでなく、身体にとって好ましくない放射線を浴びる等、不利益ばかり被る可能性だってあるのです。内視鏡や×線による検診には一定割合で事故のリスクがあります。また、検査機器が人体に与える悪影響も見逃せません。レントゲン検査の放射能、検査機器の電磁波など、医療機器で人体にまったく害をなさないものはありません。妊婦のお腹に超音波を当てて胎内の赤ちゃんを見るエコー検査も、激しく細胞分裂している胎児に大量の電磁波を浴びせることが危険でないはずがないでしょう。
ちなみに、自治体や職場の健康診断で行われる胃と肺のレントゲン撮影。その市場規模は年間500万人とされていて、云十億円ものお金が動いています。現在の日本は税収が少なく、毎年赤字国債を発行することでかろうじて国が成り立っている状況です。そのような時に、成果が上がっているかいないかわからないようなものに税金を使うべきではないと、私は思います。
実は米国では、その有効性がないということで肺がん検診は20年以上も前に止めています。肺がん検診での発見率は0.04%程度であることが判り、この程度の発見率ではコストをかける意味がないと判断されたからです。その数年後には、英国でも廃止されています。
しかし日本では、米国が肺がん検診を止めた翌年から、医療機関や自治体が積極的に肺がん検診を推進しているのです。つくづく不思議な国だと思います。利益を享受するのは医療機関ばかりです。科学的根拠を謳う西洋医学の医師たちがが、どうして無効な検診を行うのか私には理解できません。
これでは、検診とは国民の健康を維持するためのものではなく、検診に関わる人たちの職場を確保したり、医療機関の経営を健全化させたりするために行われているような気がしてきます。そう考えると、健康診断を受ければ健康を維持できるとか、早期発見早期治療すればがんは怖くないとか、国民に対して刷り込みを行うのも妙に納得できてしまうのです。