NPO法人 二十四の瞳
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病医院は検査機器の代理店

まずは、がん検診についての相談事例をふたつ紹介しましょう。
 
ひとつめは、四半期ごとに街まで乳がん検診を受けに行っている60歳代女性のご主人から相談されたことがあります。要は、本当にそんな頻度で検査すべきものなのか。その都度、ご主人は往復4時間近くかけて送り迎えさせられるので非常に負担である、というのが相談の主旨でした。まぁ、検診というのは病医院側が安心を売っているわけで、「異常なし」と言われた奥さんがそれでハッピーなのであれば必ずしも意味がないとは言えないでしょう。

日本ではいま、乳がん検診がブームのようになり、私たちの莫大な税金が自治体経由で医療機関に流れています。これは何も乳がんに限ったことではありませんが。ひとつの側面として、病医院は「検査と薬を売る」ことでその経営が成り立っているという認識を、患者さん側も持っておくべきだと思います。

数年前、NHKスペシャル『日本のがん医療を問う』(2005年4月30日)という番組で、乳がん治療に関する衝撃的な内容が明かされています。日本乳癌学会の調査によると、乳がんの治療において「乳癌診療ガイドライン」(乳がん治療のスタンダードとされる基準)に則った治療がなされた症例は49パーセントに過ぎず、標準的治療がなされなかった症例が51%。さらに、標準的とは言えない治療により病状を悪化させた症例が全体の27%もあったというのです。

番組の解説では、「日本の乳がん治療は欧米よりもかなり遅れているだけでなく、病院間の格差がかなりある。にもかかわらず、全国の病院がこぞって定期的に検診を受けるよう勧誘している。これでは、治療レベルは低いのに患者ばかり探しているのがわが国の定期検診の現状だと言われても仕方がない」として疑問を投げかけていました。が、あれから5年経ったいまでも、嬉々として乳がん検診に出かける女性たちはかなり多いです。

記憶に新しいところでは、今年の正月明けに、「米政府が乳がん検診についてその有効性を認めない方針を公表した」という記事が四大紙に掲載されました。それだけではありません。とくに若い女性にとっては「がんの疑い」と出て過剰診断となる例が起こりやすいと勧告しているのです。私は、世の女性たちに声を大にして問わねばなりません。「それでもまだ、乳がん検診を受けますか?」

もうひとつ、大腸がん検診の相談例があります。70歳代女性から、『大腸がん検診は早期発見の確率が高く、検診を受けた人は受けてない人より死亡率が7割も低い。おまけに費用も安い。親族を大腸がんで亡くされているのであれば是非とも検査しておくべきでしょう』と主治医から勧められたという電話がありました。私は言葉を選びながら、以下のように回答しました。

「現時点で体調に不具合があるようであれば、当然受けるべきだと思います。しかし、なんの異常も感じないということであれば、私としては必ずしも受けたほうがベターだとは言えません。もちろん、検診を受けて『異常なし』というお墨付きをもらって安心したいということであれば、それも大切なことです。もう一度よく考えてみて、もし検査を受けるという場合にはこれからお話しすることに注意してください。大腸がん検診は検便だけだから痛くもないし、値段的にもたしかに安いものです。ただし、仮に便に出血が見られた場合、要精密検査となり内視鏡検査が勧められるでしょうが、ここからが要注意です。

人間のおなかには長さ6mの小腸が複雑に詰まっていて、大腸は周囲の隙間を縫うように一周しています。すぐ上には胃もあり、その複雑に絡み合った管の中に内視鏡を通すにはかなりの技術が必要で、胃カメラよりも遥かに難しい検査なのです。内視鏡は日々技術進歩してより小型で柔軟になってはいますが、肝心の医師の腕が追いついておらず、腸壁を傷つけられる医療事故も増えています。精密検査を受ける場合には、このあたりのことを考えて、大腸内視鏡検査の経験が豊富な医師であることを必ず確認してから受けるようにしてください」。


多くの病医院経営者と話してみると、今日では、いまや人間ドックをふくめ検診業務は病院にとって貴重な収入源。とくに日帰り診断・治療が可能な内視鏡は稼ぎ頭だといいます。そこには、検診自体による収入があるばかりでなく、検診で発見した病気を治す過程でまた儲かるという一石二鳥の構造があります。先日、ある学会後の飲み会で、「ドックや検診なんて釣り堀みたいなものだ」などと言いながら笑っている医師たちに出くわしました。病医院を経営する立場になって考えてみれば病人や病気が減っては都合が悪いわけですし、現に「患者は“生かさず、殺さず”がベスト」と言い放っている医師もいるくらいです。そうかと思えば、PET検診を目玉にしたリゾートツアー等の高額な旅行商品が流行ったりもしています。こうしたものに投資するすべての人たちを否定する気はありませんが、検査を受ける側には絶えずリスクがついてまわるのだという認識だけは持っておくようにしてください。

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