特定健診の舞台裏


さて、2008年4月から駆け込みで法制化された特定健診。これで得をしたのはいったい誰なのでしょうか?高血圧患者3500万人。糖尿病患者・予備軍は1800万人。諸々のアレルギー患者が5000万人。がん患者70万人。難病患者60万人。これだけで軽く1億人を超えている計算になります。さらに死亡者の原因疾患は、がん・虚血性心疾患・脳卒中で約60万人と、日本人の3人に2人がこれらの生活習慣病で亡くなっています。だから若いうちから病気を予防して健康なひとを増やし、結果的に国民医療費を抑制しようということでスタートしたのが特定健診です。肥満・高脂血症・高血圧・高血糖が揃った状態は「死の四重奏」と称され、放置すると重大な症状を引き起こすぞ、と大々的にキャンペーンが行われています。

男性の場合でヘソ周りのウエストが85センチ、女性は90センチを超えた場合は「要注意」となり、メタボかどうかの大きな基準となります。これに加えて、さらに①血中の中性脂肪値が多いか善玉コレステロールが少ない ②血圧が高い ③血糖値が高い の3つのうち2つが該当すると「メタボリックシンドローム」と診断されてしまいます。

メタボあるいはその予備軍と診断されると、保健師や管理栄養士などから保健指導を受けなければなりません。こうやって若いうちから危機意識を持たせてメタボを減らし、国民医療費も削減しようというシナリオだったのですが、この特定健診には最初から疑惑が渦巻いていました。

最大の疑問はウエストの寸法です。男が85センチで女が90センチという数字の根拠がわかりません。米国の診断基準は男性が102センチ超、女性が88センチ超でいずれも日本より緩やかです。また、米国では女性のほうが男性より基準値が厳しくなっています。他の国の例を見ても男性の基準のほうが厳しいのは日本だけです。また、男性のウエスト85センチという値は、日本人男性のほぼ平均値であり、この基準でいったらほとんどの人が引っかかってしまうのではないかと指摘されていました。

そうこうしているうちに、読売新聞が、「メタボリックの診断基準を作成した委員会メンバーのうち国公立大学の医師11人全員に高血圧などの治療薬メーカーから合計約14億円の寄付があった」と報じたのです。これによって特定健診とは、結局は多くの人をメタボに仕立て、その治療に薬を使用するのではないかという見方が定着してしまったわけです。そうなれば、医療費の抑制なんぞ夢のまた夢となってしまうのは当然かもしれません。
少子高齢化によって瀕死状態にある社会保険制度を救う唯一の方法とされる予防医学ですが、こうした事実を知ってしまうと、結局は医師が薬を処方する口実を与えてしまうだけではないかという疑念が生じてくるのです。

 
いや、はっきり言いましょう。
私は、日本の西洋医学の現状は、検査と薬を売らんがために患者さんたちの健康をないがしろにしていると思っています。多くの医師たちが、薬と検査の売人に成り下がっています。ですから、新薬の研究開発については非常に危機感を覚えています。これから患者さんたちにとって望ましい医療が浸透していくためには、ようやく芽吹いてきた東洋医学のような自然的な治療法の対立概念として、どうしても製薬メーカーの商業的開発姿勢が浮かび上がってくるからです。メタボリックを解消するために日常的に服用する薬からがん治療における抗がん剤に至るまで、その研究開発は毒と効能を抱き合わせて行われているため、患者さんは生涯にわたって薬害から逃れることができなくなってしまいます。まさしく薬漬けの状況に陥ってしまうのです。

メタボブームに騙されるな


先日、40代女性から、「主人(47歳)が主治医からメタボリック体型を理由に、コレステロールを調整する薬を薦められているのですが…」という相談がありました。念のため、2008年4月から始まった世紀の愚作、メタボの診断基準を導入した特定健診制度について説明しておきましょう。これは、40歳から74歳までの人を対象に、「男性で腹囲85センチ以上、女性で90センチ以上」だった場合、生活習慣改善の指導が行われ、自己責任で腹囲を減らさねばならないというものです。高騰する医療費を抑制するために、国民ひとりひとりに病気予防の意識を徹底しようという国策なのです。

厚労省はこのメタボ狩りで医療費2兆円の削減を狙うとしていましたが、それはどうも建前のような気がしてなりません。一連のメタボリック対策は循環器病予防が目的という点が妙にひっかかるのです。日本人の死因トップであるがんの予防ではなく心筋梗塞等の循環器病であることを考えると、どうしても製薬会社の影がちらついて仕方がない。なぜかというと、がんよりも循環器病のほうが薬を売りやすいからです。

これらを踏まえて、相談者にはこう回答しました。「もしもご主人が超肥満体型でもなく、また何の自覚症状もないということであれば安直に薬に手を出すべきではありません」と。みなさん、いいですか。騙されてはいけません。太り気味の男性がみな薬漬けになったら、それこそ製薬会社は大儲けです。その結果、国民医療費の抑制なんぞ絵に描いた餅で、逆に医療費がさらに嵩むことは子どもでもわかるはずです。

ところで、驚くことに厚労省の寿命調査では、特定健診が制度化される前の時点で、「日本人は小太り体形がいちばん長生きだ」と報告されています。その一方で、腹をへこませないと循環器病になるぞと脅しをかける厚労省の厚顔無恥な言動を、私は理解することができないし許せません。この件については、医師の間でさえ「今回のメタボ基準値の設定にはなんら根拠がない」と囁かれているくらいなのです。

医者が検査に熱心な理由

さいごに、日本の病医院が患者さんに盛んに検査を進めるわけについて触れておきます。それは極めて単純明快で、云億円もする検査危機を買ってしまったからです。買ってしまったら、どんどん使ってコストを回収しなければならないのは当然です。今日ほど国民医療費の問題がとやかく言われなかった時代。それは患者さんたち(特に高齢者)が医療はタダだと思って病医院に日参していた時代でもあります。患者さんが費用負担しなくても、病医院には国からジャンジャンお金が入ってきます。病医院はさらに儲けようと、最新鋭の機器をどんどん購入します。それを売りにしてひとりでも多くの患者さんを集めようとしました。ほんの10年前のことです。その習性がいまでも根強く残っています。

日本の
医療機器の充実ぶりは異常です。米国や英国の病院に較べて、CTスキャナーやMRIなどの高額精密機器の設置台数は群を抜いています。OECDの統計によれば、日本は世界最多のCTスキャナーとMRIを保有しています。人口100万人当たりのCTスキャナー数は約100台、米国の3倍。検査の有効性を認めていない英国と比べたら何と12倍です。もうこれ以上言うまでもないと思います。

なお、私の周囲には健診や検診なんぞ受けたことがないという医師が非常に多いことを書き添えておきます。彼ら自身がその有効性を信じていない証拠ではないでしょうか。

がん検診は受けるな


親交のある
新潟大学大学院医歯学総合研究科の安保徹教授などは、がんになりたくなかったら「がん検診を受けるべからず」と言い切っています。それには2つの理由があって、まずひとつは、がん検診は疑わしいものを広くひっかけて精密検査をします。ひとりの胃がん患者を見つけるために、だいたい2030人を抽出するわけです。ですから、当然関係ない人まで「がんの疑いあり」ということで精密検査をしなければならなくなります。

これは大変なストレスになります。おそらく、がんになったと同じくらいの大変なストレスがかかると予測されます。それで本当に発がんしてしまう人もいるくらいです。おそらく、疑いをかけられた人のうち
10人に1人は発がんするのではないかと思います。世界には、検診グループのほうが発がん率が高いという論文がたくさんあります。米国でも日本でも検診グループのほうが発がん率が高いというのが定説になってきています。

もうひとつの指摘は、いまのがん検診は、早期発見・早期治療が必要だからといって無理やり見つけては切除して抗がん剤や放射線で本格的な治療を始めようとします。ですが、それで
100%治るという保証はありません。これは放っておくよりもむしろ危険です。早期発見・早期治療と言っても、治療法が間違っていたとしたら話はちがってきます。がんによる死亡が10数年も増え続けています。よくあるのが、摘出手術は成功したにもかかわらず、結局は亡くなったというケースです。私の感覚でいったら、5年以内に9割以上の方がそうではないかと思います。本来、適切な治療をしていれば徐々に停滞してくるはずですから、結局、西洋医学が推奨する「早期発見・早期治療」は逆効果になっているということになります。


どうも目に見えない圧力が働いて、がん撲滅の幻想を与えつつ、検診や健診の有効性を無視してやみくもに社会適用している気がしてならないのです。

ほとんどの検診はムダである

さて、検診全般のことを考えたとき、毎年1兆円ずつ医療費が増えていっている現状から判断すると、たぶん、検診一般の効果は上がっていないと思われます。定期的に検診を受けることを習慣化して病気が減るのであれば検診を受ける意味もあります。検診結果に「このままの状態が続けば○○の病気になります」等と書いてあり、「あなたは○○と○○をして○○の病気を回避しましょう」等のアドバイスや改善のための具体的な方法でも記載されているのであれば患者さんにとってメリットもあるのでしょうが、何もないのであれば定期的に検査を受ける意味はありません。

これまでわが国の検診というのは、検査して数値を知らせるだけというものでした。ところが最近の検診はもっとタチが悪くて、グレーゾーンを広げて要精密検査の人を増やしたり、日常生活に支障のないレベルの些細な出来物を無理やり見つけて摘出手術に誘導したりするような商売のやり方が散見されます。
しかし、それが行き過ぎると、日常生活になんの支障もないレベルの些細な異常所見を強調して病気や病人を作りだすことにもなりかねません。

こんなことをしていたのでは、
検診により病気が減るどころか、むしろ医療費は年々増加し、病人が増えていくのは当たり前です。なぜかと言うと、こういうことをしていると、検査結果によってストレスを覚えたり、痛くも痒くもなかった身体にメスを入れることで術後の生活に支障が出たりして、本当に病気になってしまう人たちが増えてしまうからです。

このような摩訶不思議な検診が全国津々浦々、国家的規模で推進されているわけですから、今日の医療財政の破綻は当然の結果と考えられます。
健診や検診には、私たちが汗を流して働いて納めた税金が使われています。それでも効果があって、国民の病気が減り、健康なひとがどんどん増えているならいいでしょう。これまで全国の自治体では、毎年の健康診断で国民が健康になったかどうかをまったく検証しないできました。その効果を測定することもなく、さらにここ数年ではがん検診が強力に推進されています。

実は、先日の米国における乳がん報道の他にも、検診の有効性について否定する公的なレポートが日本に存在しています。1998年に当時の厚生省・公衆衛生審議会が、「子宮体がん、肺がん、乳がんは、現在の検診では実施してもなくても、がんの発見率は変わらない」と報告しています。また、過去の新聞記事を拾ってみると、「大腸がん検診の有効性の評価を行う厚生労働省の研究班は、集団検診での内視鏡・エックス線検査や直腸指診に否定的な見解を示し、自治体が実施する集団検診や職場検診など集団対象には奨められない」(2005年3月23日の朝日新聞)という記事もあります。

にもかかわらず、自治体の
広報では有効性が謳われています。いまも自治体や職場での集団検診には必ずといってエックス線での検査があるのはどうしたことでしょうか。厚労省が否定的な見解を示したものを職場や市の広報で推奨しているというのは実に不可解なことだとは思いませんか?

受診者は時間とお金を無駄にするだけでなく、身体にとって好ましくない放射線を浴びる等、不利益ばかり被る可能性だってあるのです。
内視鏡や×線による検診には一定割合で事故のリスクがあります。また、検査機器が人体に与える悪影響も見逃せません。レントゲン検査の放射能、検査機器の電磁波など、医療機器で人体にまったく害をなさないものはありません。妊婦のお腹に超音波を当てて胎内の赤ちゃんを見るエコー検査も、激しく細胞分裂している胎児に大量の電磁波を浴びせることが危険でないはずがないでしょう。

ちなみに、自治体や職場の健康診断で行われる胃と肺のレントゲン撮影。その市場規模は年間
500万人とされていて、云十億円ものお金が動いています。現在の日本は税収が少なく、毎年赤字国債を発行することでかろうじて国が成り立っている状況です。そのような時に、成果が上がっているかいないかわからないようなものに税金を使うべきではないと、私は思います。

実は米国では、その有効性がないということで肺がん検診は
20年以上も前に止めています。肺がん検診での発見率は0.04%程度であることが判り、この程度の発見率ではコストをかける意味がないと判断されたからです。その数年後には、英国でも廃止されています。

しかし日本では、米国が肺がん検診を止めた翌年から、医療機関や自治体が積極的に肺がん検診を推進しているのです。つくづく不思議な国だと思います。利益を享受するのは医療機関ばかりです。科学的根拠を謳う西洋医学の医師たちがが、どうして無効な検診を行うのか私には理解できません。

これでは、検診とは国民の健康を維持するためのものではなく、検診に関わる人たちの職場を確保したり、医療機関の経営を健全化させたりするために行われているような気がしてきます。そう考えると、健康診断を受ければ健康を維持できるとか、早期発見早期治療すればがんは怖くないとか、国民に対して刷り込みを行うのも妙に納得できてしまうのです。

病医院は検査機器の代理店

まずは、がん検診についての相談事例をふたつ紹介しましょう。
 
ひとつめは、四半期ごとに街まで乳がん検診を受けに行っている60歳代女性のご主人から相談されたことがあります。要は、本当にそんな頻度で検査すべきものなのか。その都度、ご主人は往復4時間近くかけて送り迎えさせられるので非常に負担である、というのが相談の主旨でした。まぁ、検診というのは病医院側が安心を売っているわけで、「異常なし」と言われた奥さんがそれでハッピーなのであれば必ずしも意味がないとは言えないでしょう。

日本ではいま、乳がん検診がブームのようになり、私たちの莫大な税金が自治体経由で医療機関に流れています。これは何も乳がんに限ったことではありませんが。ひとつの側面として、病医院は「検査と薬を売る」ことでその経営が成り立っているという認識を、患者さん側も持っておくべきだと思います。

数年前、NHKスペシャル『日本のがん医療を問う』(2005年4月30日)という番組で、乳がん治療に関する衝撃的な内容が明かされています。日本乳癌学会の調査によると、乳がんの治療において「乳癌診療ガイドライン」(乳がん治療のスタンダードとされる基準)に則った治療がなされた症例は49パーセントに過ぎず、標準的治療がなされなかった症例が51%。さらに、標準的とは言えない治療により病状を悪化させた症例が全体の27%もあったというのです。

番組の解説では、「日本の乳がん治療は欧米よりもかなり遅れているだけでなく、病院間の格差がかなりある。にもかかわらず、全国の病院がこぞって定期的に検診を受けるよう勧誘している。これでは、治療レベルは低いのに患者ばかり探しているのがわが国の定期検診の現状だと言われても仕方がない」として疑問を投げかけていました。が、あれから5年経ったいまでも、嬉々として乳がん検診に出かける女性たちはかなり多いです。

記憶に新しいところでは、今年の正月明けに、「米政府が乳がん検診についてその有効性を認めない方針を公表した」という記事が四大紙に掲載されました。それだけではありません。とくに若い女性にとっては「がんの疑い」と出て過剰診断となる例が起こりやすいと勧告しているのです。私は、世の女性たちに声を大にして問わねばなりません。「それでもまだ、乳がん検診を受けますか?」

もうひとつ、大腸がん検診の相談例があります。70歳代女性から、『大腸がん検診は早期発見の確率が高く、検診を受けた人は受けてない人より死亡率が7割も低い。おまけに費用も安い。親族を大腸がんで亡くされているのであれば是非とも検査しておくべきでしょう』と主治医から勧められたという電話がありました。私は言葉を選びながら、以下のように回答しました。

「現時点で体調に不具合があるようであれば、当然受けるべきだと思います。しかし、なんの異常も感じないということであれば、私としては必ずしも受けたほうがベターだとは言えません。もちろん、検診を受けて『異常なし』というお墨付きをもらって安心したいということであれば、それも大切なことです。もう一度よく考えてみて、もし検査を受けるという場合にはこれからお話しすることに注意してください。大腸がん検診は検便だけだから痛くもないし、値段的にもたしかに安いものです。ただし、仮に便に出血が見られた場合、要精密検査となり内視鏡検査が勧められるでしょうが、ここからが要注意です。

人間のおなかには長さ6mの小腸が複雑に詰まっていて、大腸は周囲の隙間を縫うように一周しています。すぐ上には胃もあり、その複雑に絡み合った管の中に内視鏡を通すにはかなりの技術が必要で、胃カメラよりも遥かに難しい検査なのです。内視鏡は日々技術進歩してより小型で柔軟になってはいますが、肝心の医師の腕が追いついておらず、腸壁を傷つけられる医療事故も増えています。精密検査を受ける場合には、このあたりのことを考えて、大腸内視鏡検査の経験が豊富な医師であることを必ず確認してから受けるようにしてください」。


多くの病医院経営者と話してみると、今日では、いまや人間ドックをふくめ検診業務は病院にとって貴重な収入源。とくに日帰り診断・治療が可能な内視鏡は稼ぎ頭だといいます。そこには、検診自体による収入があるばかりでなく、検診で発見した病気を治す過程でまた儲かるという一石二鳥の構造があります。先日、ある学会後の飲み会で、「ドックや検診なんて釣り堀みたいなものだ」などと言いながら笑っている医師たちに出くわしました。病医院を経営する立場になって考えてみれば病人や病気が減っては都合が悪いわけですし、現に「患者は“生かさず、殺さず”がベスト」と言い放っている医師もいるくらいです。そうかと思えば、PET検診を目玉にしたリゾートツアー等の高額な旅行商品が流行ったりもしています。こうしたものに投資するすべての人たちを否定する気はありませんが、検査を受ける側には絶えずリスクがついてまわるのだという認識だけは持っておくようにしてください。

食品メーカーが生活習慣病の共犯者

さて、このパートの最後に、食べ物についてもちょっとだけ触れておきましょう。薬だけではなく、今日流通している食べ物にも私たちの身体に好ましくない化学物質が大量に含まれています。農家の人たちは、売り物の農作物とは別に、自分たちが食べる分は無農薬で作っています。出荷するほうは見栄えをよくするために、栽培の過程で大量の農薬や化学肥料を使っているのを知っているから収穫しても怖くて口にできないというのです。


かつてハンバーガーチェーンの社長は、「自分の孫にはハンバーガーやフライドポテトを食べさせない」と言っていました。また、大手乳製品メーカーの部長は、「わが家では牛乳は飲まず、豆乳です」と照れ笑いをしていました。ジャンクフードをはじめとする加工食品を製造販売しているメーカーは、私たちを不健康にすることで成り立っている商売なのです。世の中の真実とはこういうものなのですね。医師が薬を飲まないという話はこれに通ずるものがあると思います。でも多くのひとたちは、こうした真実を知らされないのですね。


調べてみると、もう7,8年も前になりますが、米国のNIHが重要な発表をしています。がんの発症については、50%が食物関連、30%が煙草に依存しており、食べ物の消化吸収や代謝異常が大きな要因であるという内容です。それ以降の研究成果により、食生活を変えること(食餌療法)でがんを予防したり改善したりできることもわかってきており、がんの治療に際しては、いわゆる3大治療法(外科的手術、抗がん剤、放射線)と同列で東洋医学的な食事療法が選択肢として並べられています。医師はそれぞれについて具体的な治療内容や長所・短所を患者に説明し、患者は自己責任で治療法を決定しているのです。


こういう事実を知ると、日本の医師と患者はもっともっと勉強しなければダメだと恥ずかしく思います。良い医師には良い患者が、良い患者には良い医師が必要ということだと思います。


がん・心臓病・糖尿病・脳卒中などの生活習慣病は、まちがった食生活が原因で起こるものです。結局は普段の食生活が非常に大切だということです。ですから、これらの状態を改善するためにはまず食べ物を見直さなければダメなのです。この問題は国を挙げて取り組むべきもので、『食生活革新』というくらい大上段に構えてもいいかも知れませんね。この点でも日本は大きく遅れをとっていて、医師はもっと栄養学に目を向けるべきだと思います。大学でももっとカリキュラムを増やさないといけません。


がんは生活習慣病の代表選手です。そして、人間の生活習慣を端的に表わすものが毎日の食事です。わたしたちは死ぬまでに
88千回の食事をします。それ以外にも数え切れないほどの間食をします。その都度、私たちの口から、化学調味料、甘味料、食品添加物、合成保存料などが大量に吸収されていくとしたら、ちょっと怖くなりませんか?戦後の高度成長経済を通して、食品産業界は大きく発展を遂げました。一流大学を卒業した化学者たちが知恵をしぼって、私たちが繰り返し食べたくて食べたくて仕方がなくなるような商品を開発してきました。好感度の高い俳優さんやタレントを使ってテレビコマーシャルをじゃんじゃん流し、それに乗っかってしまった私たちの味蕾(みらい:舌の表面にある味覚を感じる点々)は人工的な味付けに慣らされてしまったのです。


最近はとくにグルメ番組が多いですよね。そこで紹介されるベッチョリしたお薦め料理みたいなものは、たぶん私たちの「口」を魅了することでしょう。長年の食生活を通じてそうしたものを美味しいと感じるように操作されてしまったわけですからね。でも、私たちの「身体」は決して美味しいとは感じていないはずなのです。みなさんが五つ星レストランの高級フレンチに舌鼓を打ったとしても、みなさんの胃や肝臓や腸などの臓器は「げっ、またご主人様はこんなまずいものを召し上がって…。たまらないなぁ」と悲鳴を上げていますよ、きっと。だからがんが増え続けているのです。


江戸時代の儒学者で貝原益軒という人がいます。彼の有名な著書『養生訓』には、粗食のすすめや美食の慎みなど、あるべき食生活のことが詳細に書かれています。本屋さんに行けば、こんにちではいろいろな人たちがいろいろな食事指導書を書いていますが、結局は『養生訓』に集約されるような気がします。海外の食餌療法でも日本の伝統的な食事法をベースにしたものが殆どです。つまり、西洋医学が広まるずっと前から、日本には立派な教えがあったということです。こういうことを考えていくと、私たちが健康的な人生を送るための手っ取り早い方法は、商業主義一辺倒の食品産業界とは一定の距離を置くことだとご理解いただけるのではないでしょうか。


私の患者さんたちには私自ら食事を指導していますが、それは然るべき栄養をきちんと摂ってもらうことで患者さんたちの治癒力を引き出してあげるのが私の役割だからなのです。医師が病気を治すなどという大それたことは考えてはいけないと、自分を戒めながら治療に当っているのです(笑)。

生活習慣病の真犯人は製薬メーカー


もうひとつ、薬についてはこんな話があります。インフルエンザの治療薬とされるタミフルについてですが、大学や大病院の医師たちには、製薬メーカーから研究名義の大金が支払われています。ぶっちゃけた話、医療も商売なのですね。だから、病人を治療するのみならず、作り出すのも当然と言えば当然のことかもしれません。病人が増加した結果、わが国の国民医療費は
33兆円を超えました。

さて、このお金はどこに行くのでしょうか。医師の他、製薬メーカーや卸、医療機器メーカー、看護師・薬剤師などの医療従事者、調剤薬局、介護福祉関連の従事者などに支払われるわけで、多くの人が医療によって生計を立てているわけです。

服用による死者が出たとして米国ではすでに製造販売が中止された薬が、日本ではいまだに出回っていたりもします。C型肝炎薬害のケースを見ても、どうもわが国では、薬や食品添加物への対応に甘さが見られます。無責任といってもいいくらいです。

こうしたことをひっくるめて考えるに、誤解を恐れずに言ってしまえば、医療の世界は癒着産業なのです。新薬で大当たりを目論む製薬会社。そこへの天下りを狙う厚生官僚。研究費という名目で寄付金をもらい論文を作文する研究者…。まさに
政官財の癒着構造です。「財」であるところの製薬会社は、官である厚生労働省からの天下りを受け入れ、政界に多額の政治献金を行い、薬漬け医療を展開する牽引役と言ってもいいでしょう。莫大なお金が、医療の発展という大義名分の下で費やされているのです。そこに利権が絡むとなれば、実際には大して効果のない薬が承認されたり、以前のものより効能が劣る薬が承認されたりすることもあり得ると考えた方がいいかもしれません。

実は、今日の生活習慣病は、ある意味では薬害と言っていい側面があるのです。薬の有効性に対する疑問や薬剤費の無駄遣いは長いこと指摘されてきました。効きもしない薬で患者に経済的負担を与えたり、有害な薬で身体的障害を与えたり…。そんなことは一度や二度ではありません。無意味な薬の最たるものは脳代謝賦活剤と認知症改善薬で、全国的に使用され製薬会社に莫大な利益をもたらしました。中外製薬のタミフルと横浜市大教授の研究費問題も許してはならないことです。タミフルでは何人もの患者さんが命を落としているのです。

ですが、医療医薬業界の体質改善は遅々として進まずに今日まで来てしまったのです。医師と製薬会社の間には、いまも馴れ合いと便宜に対する金銭的見返りが既成事実となっています。多くの薬は偽りの有効性が作り上げられ、研究にも誤魔化しが多々あります。結局は、行き過ぎた医療の産業化と商業主義が国民に害を及ぼしているということです。

薬売りと化した医者たち


さて、高齢者と薬の関係についてですが、もっとも重要なのが、人間歳を取れば必然的に臓器の働きは弱くなるという心理です。例えば肝臓の機能が落ちるということは、口から飲んだ薬を肝臓で分解するスピードが遅くなるということを意味します。腎臓の機能が落ちるということは、薬が腎臓から排泄される速度も落ちるということです。さらに、歳を取ってくると身体のなかの水分が減って油分が増えてきます。ほとんどの薬は油に溶けるため、体内に薬が溜まりやすくなることも考慮しなければいけません。
 
そうするとどういうことが起こるでしょうか。ふつうは薬を飲んで
30分後ぐらいに、血中濃度のピークがきます。ピークがきてから何時間後に濃度が半分になるかという時間を「血中濃度の半減期」と言います。本来であれば、患者さんの年齢や遺伝体質や既往症等からこの「血中濃度の半減期」を判断して薬の処方量を決定すべきなのです。

たとえば、セルシンという名前で売られている「ジアゼパム」といういちばんありきたりの精神安定剤の場合ですと、この「血中濃度の半減期」が非常に長いという特性があります。濃度が半分になるのに、
20歳代でも20時間かかり、恐ろしいことに70歳代になると70時間もかかるのです。つまり、あまり頻繁に飲んではいけない薬だということです。

一般に、歳を取ると殆どの薬は「血中濃度の半減期」が若い時の2倍位になります。ということは、高齢者が
13度も飲むと薬が溶けるよりも、体内にどんどん溜まっていってしまうわけです。ですから、歳を取れば、薬を3度飲むのを2度にするとか1度にするとかにしてうまく調節していかないと、体内に化学物質である薬が蓄積されて、思わぬ落とし穴に嵌ってしまうという危険を孕んでいるのです。

こうして高齢者に対する薬の処方のあり方を見直してみると、本来、高齢者が増えれば増えるほど薬剤費は安くなっていくという理屈になりますが、わが国のほとんどの医師たちはこのようなことを真面目に考えていないか、あるいは売上を上げることしか考えていないか、今日も何種類もの薬をもらうために通院を強いられる高齢者たちが後を絶たないのです。

とても大切なことですのでまとめておきます。薬は飲まないに越したことはない。なぜなら、歳を取ると肝臓の機能が落ちて薬を肝臓で分解するスピードが遅くなる。歳を取ると腎臓の機能も落ちて、薬が排泄される速度も落ちる。歳を取ると体内の水分が減って油分が増えて、薬が油に溶けて体内に溜まりやすくなる。そうすると体内に溜まった薬が思わぬ悪さをしかねない。だから薬の飲みすぎは身体に悪い…ということになります。

ところで、先述したように、患者さんが知っておくべきなのは、そもそも医療には限界があるということです。患者さんだけでなく、医師もこの事実から眼をそむけてはいけません。私たちの健康寿命を決定する因子の半分は食事・運動・喫煙などの生活習慣です。他に、人間関係や住まい方などの環境が20%、生まれつきの遺伝子が20%といったところです。つまり、薬を含めた医療の影響はわずか10%に過ぎないのです。それではなぜ医師はたくさんの薬を出すのでしょうか?


実を言うと、診療報酬のマイナス改定が前提となった昨今では、これまでと同じような医療活動をしていたのでは当然減収となり、採算を度外視していたのでは病医院の経営は成り立たないのです。その結果、収益を上げようと、ちょっとしたことで検査したり、薬を必要以上に出したり、過剰な手術や終末期医療などが目立ってきたとしても不思議ではありません。今の制度では、診察するだけではさしてお金にならないので、とりあえずいろいろやっておこうということが罷り通っています。いまや医師たちは、薬と検査を売る商人…。そんな傾向は否定できないでしょう。

薬は飲むな ~医者はクスリを飲まない~


いかがだったでしょうか。日本の患者さんたちが彼の半分くらいでも医師に説明を求めるように変わっていくと、西洋医学や日本の医療システムも変わるかもしれないなと思いながら彼の話を聞いていました。細かな数値はともかく、全体的な話はそのとおりだというのが私の感想です。


私たちの本当の健康というものを考えた場合、基本的に化学薬品は服用しないほうがいいでしょう。やむなく薬を出す場合には、医師はキッチリと説明する。不安ならば患者もしっかり質問する。長寿高齢時代の今、そんな関係が求められます。必要がないのに薬を出すだけならまだしも、その薬の副作用で本当に病人を作り出してしまう場合もあるので困りものです。ある意味では、薬は化学薬品であり石油からできているわけで、これを飲むというのは、石油を飲み、プラスチックを食べているのと同じようなものかもしれません。ちなみに、私の知り合いの医師仲間にも高血圧だったり糖尿だったりする人はかなりいます。でも、彼らは、患者さんには薬を出しますが、自分では薬を飲まずに食事や運動で少しずつ改善しています。真実というのは、いつもこういうものなのかもしれません。

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