感動する医者の話8
「そうでしたか。それはおつらかったでしょうねぇ。いゃあ、男性だってあの検査は恥ずかしいものですよ。女性ならなおのことです。」
腸は柔らかく長いので、検査自体にもリスクを伴う。大腸内視鏡検査はかなり技術的な進歩があることはまちがいないが、医者の技量によってはかなりのリスクがあると思ったほうがいい。とにもかくにも場数を踏むことが必要なのである。
大腸内視鏡検査と胃カメラは、最近の検査ブームもあって、医師が1人とか2人とかの診療所でも日常的に行われるようになっている。その反面、1000名に2人程度の割合で、ファイバーで腸を傷つけたり破ったりしてしまったという重大な事故が発生していると聞く。原因のほとんどが医師による内視鏡の操作ミスだそうだ。こうしたリスクを回避するため、特に腸が弱くなっている高齢者などは、バリウムを使う注腸検査が選択される場合が多い。
しかし、バリウムでもアレルギーを起こす場合があって、それによって腸に穴が開いてしまったという報告もある。検査の前に、気持ちを落ち着かせたり筋肉の緊張を緩めたりする目的で、鎮静剤や喉への麻酔を使用することもある。しかし、それによって急に気分が悪くなったり、稀にショック状態に陥ってしまうケースだってないとはいえない。結局、内視鏡検査にはリスクが伴うということだ。そのことをちゃんと理解したうえで検査を受ける必要がある。
もしも内視鏡検査を勧められたなら、その医者が月に何回くらい同じ検査を行っているのかを事前に確認したほうがいい。経験が多い医者ほどリスクは低い。カメラを入れてから抜き終わるまでの所要時間は、なんと3~4倍もの差が出ることさえ珍しくはないのだ。
さて彼女だが、大腸内視鏡の検査の結果、潰瘍性大腸炎と診断される。薬で大腸の炎症を抑えながら、食事療法および絶食で大腸を安静にして症状の改善を待つことになる。併せて、炎症が進んで下血があったため、ステロイドを使用することに。でも、早ければ1~2ヵ月で効果が出てくるだろうと言われ、こころに光が差した気がした。
「ここまでは最悪だったけれど、あと3ヶ月もすれば、霧も晴れるかもしれない。止まない雨はないんだわ。」
ところが、1年間通院しながら服薬と厳格な食事療法を行うものの、まるで改善の気配すらなかった。しかも段階的にステロイドの量が増えていく。顔のむくみもどんどん目立つようになってきた。この先、いったい自分はどうなってしまうのだろうか。
そんな不安と裏腹に、医者は平然と少しずつステロイド剤の処方量を増やしてくる。日に日に顔や手足のむくみが目立つようになって、一歩家の外に出れば人の視線が痛い。副作用に対する危機感がますます募っていく。いよいよ医者任せにはできないと、医学関連の本やインターネットで情報集めをしはじめた。そう、この段階になってはじめて、彼女は自立したのだ。自分の病気に対して、自分の明確な意思でもって立ち向かおうとしたのである。そして、不思議なご縁で私のクリニックに行き当たったのである。
(続く)