感動する医者の話4

そして今現在でも、私のクリニックを訪れる患者さんからは日常茶飯にこんな話を聞く。
 
「手術は成功。目に見える限りのがんはきれいに取った。抗がん剤で再発を抑えれば問題ない。そう言われて、副作用に苦しみながらも治療を続けてきた。にもかかわらず、転移が見つかったと言われて・・・」。
 
私も若い頃感じていたこの疑問の答えはこうである。医者は、開腹してみて目に見えるがんは全部取る。けれども、目に見えないがんは取れないのである。だから、目には見えない転移をも配慮して可能な限り広範囲を切除する慣習があったのだ。ただし、現在では患者さんの負担を軽減すべく、極力メスを入れる範囲を小さく抑えようという流れになりつつはあるが。
 
そして、もうひとつ。抗がん剤の有効性についてである。実は、わが国の抗がん剤の認可基準は、「有効率20%以上」となっている。わかりやすく言うと、ある医者がある抗がん剤を10人の患者に投与したとする。そのとき、他の8人には効かなくても、2人に有効性が認められれば認可してあげましょうということ。これが日本の医療の真実なのである。
 
では、「抗がん剤の有効性」の定義とはなんなのだろう。
驚愕の回答はこうなる。「ある患者さんに対してある抗がん剤が有効であるという場合、“有効”の定義は、もともとのがんの大きさが半分程度に縮んだ状態が4週間程度続くこと」なのだ。EBM(根拠に基く治療)を強く掲げる西洋医学において、抗がん剤の定義がこの曖昧さとは、矛盾も甚だしいではないか。
 
臓器にメスを入れられ、髪の毛が抜けたり、吐き気がしたり、そんなつらい思いをしながらもじっと我慢して抗がん剤を服用し続けている患者さんたちは、果たしてこの真実を聞かされているのだろうか?患者さんたちは、この苦しみを乗り越えた向こうには健やかな日々が待っているのだという希望があればこそ、つらい治療に耐えているというのに。
 
もしも仮に、「がんを取り除いた後は抗がん剤で転移や再発を防止します。ただし、抗がん剤は10人中2人にしか効かないですけどね」という事前説明を受けていたとしたら、だれが身体じゅうに不快感をもたらすあんな強い薬を使うものか!こういうところが日本の医療の、そして日本の医者たちの良くないところだと思う。インフォームド・コンセントは、一体どうなってしまったのだろうか?
 
これはある医者仲間の話。
「うちはがん家系なんですよね。4年前に父が逝ってしまったんですが、年齢的なこともあったし、手術はしませんでした。もちろん放射線も抗がん剤もやりませんでした。ああいうのはまっぴら御免ですから。」
 
正直でよろしい。ならば患者にも正直に真実を伝えて欲しいと強く願う。

患者さん側の防衛策としては何か考えられるだろうか。もしも運悪くがんが見つかったとしても、慌てて治療法を決めないこと。ひとりでも多くの医者に、「あなたの家族がこの状態だったらどうするか」について見解を聞くこと。可能な限り手術はしない道を考えること。どうしても手術ということになってしまったら、何をもって手術が成功したと言えるのかという“成功”の定義、術後の治療法、退院後の生活イメージ等を詳細かつ具体的に納得できるまで聞き出すこと。その上で、自分自身で納得のいく治療法を選択することくらいしかないだろうと思う。

とにかく、抗がん剤はたったの2割の人にしか効かない。退院後、効きもしない強い薬で最悪の日々を過ごした挙句、結局は数年以内に再発してしまう可能性が高いという真実を、是非頭のどこかに入れておいたほうがいいと思う。そして、ご自身や愛するご家族は自ら護っていくしかないという意識と、そのための勉強を心がけていただくのがいいと考えている。
 

(続く)


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