延命治療
延命治療とは、疾病の根治ではなく延命を目的とした治療のことである。現場復帰や正常な意識の回復が見込めない患者に対し、人工呼吸や輸血、輸液などによって延命を図ることを目的とする。かつては広く行われてきていたが、尊厳死や医療費削減などの問題から見直される傾向にある。忘れてならないのは、延命治療を行えば、患者がその間余計に苦しむことになるということ。また、当然ながら延命治療であっても医療費は必要であるため、延命すればするほど医療費が嵩んでくる。もっとも問題になるのが、患者本人や家族の意思にかかわらず、医者が当然のごとく延命治療を進めてしまうケースである。
●普通の医者 「正直に申し上げて、もう社会復帰は難しいでしょう。これ以上できることは何もありません」と沈痛な表情で語り、家族が「何とか助けてください」と発するのを待つ。「お願いします。生きていてくれるだけでいい」と言われるに至り、「わかりました。できる限りのことはやってみましょう」などと言って1ヶ月程度は延命治療を行う。さすがに良心が咎め、然るべきタイミングで治療を終えるため、家族を諭しにかかる。
●良い医者 「延命治療」についてきちんと説明してくれる。延命治療とは病気の根治ではなく、単に延命を目的とした対症療法であること。社会復帰が見込めない患者に対し、人工呼吸や輸血、輸液などによって延命を図るというやり方は、かつては広く行われてきたが、尊厳死や医療費削減などの問題から見直される傾向にあること。延命治療を行った場合、患者はその間余計に苦しむこととなるし、意識がない状態でただ延命されている患者を見て家族や友人などが苦痛を感じることにもなる。また、当然ながら延命治療であっても医療費は必要であるため、延命すればするほど医療費が嵩んでくる…。こうした説明をきちんと行った上で、家族の選択を尊重してくれる。
●悪い医者 家族の嘆き悲しむのに乗じて、「できる限りのことをしてみます」と言う。「よろしくお願いします」などと言われた日には、心の中で舌を出している場合すらある。その後、家族から申し出のないかぎり、延々と延命治療で収入を増やす。
この話になると、作家・遠藤周作さん(故人)の奥様、順子さんの話を思い出さずにはいられない。
「人工呼吸器の音がゴオゴオいっていて、言葉を交わすことも何もできずに亡くなりました。それが今でも心残りだし、残念です。」
「事後承諾で人工呼吸器をつけられ、亡くなる日まで採血をされました。」
「今でも、病院で医者の正義に最後まで付き合わされる患者がたくさんいます。」
「現代の医学が効力を発揮できなくなった時点で、もう医者と患者という関係は切れていて、あとはもう人間と人間の関係です。患者と家族が心静かに別れることができる医学的な環境を整えることこそ、ターミナル医療に携わる医者に課せられた義務ではでいでしょうか。」
これからの時代、患者側は入院時に延命治療に関する要望を明確にしておくべきだろう。延命治療の是非は複雑な問題ではあるが、誰もが通る可能性が高い道。自分自身の問題として日頃から考えておくべきテーマである。ちなみに、患者本人が延命を希望しない場合、予め文書として示すことで医療機関に対し延命治療の中止を要求することができる(リビングウィル)。
<ワンポイントアドバイス:延命治療の値段>
終末期医療で、家族が「一分一秒でも長く」と要望したとしたら、カウンターショック(電気ショック)が1回35,000円、24時間対応心電図モニターが1日1,500円。人工呼吸器装着のために必要な気管内挿管措置は1日5,000円、人工呼吸器は1日12,000円。強心剤の点滴は1本7,000円、心臓マッサージは1回2,500円…(いずれも2010年現在)。差額ベッド代を除き、自己負担額は概ね2割前後ではあるが、平常心を失った状態のなかで、延命治療に係る費用が日々膨れ上がっていく。ホント驚くほどに…。500万円とか1,000万円とかいう金額もあっという間だ。また、延命措置に際して、患者側が求めない限り見積書は出てこない。医者の世界には事前見積りという考え方が定着していない。日本人はもう少し、欧米人のようにお金というものにシビアになったほうがいいのではないか。そして、ほんの数日間命を引き延ばすために患者に苦痛を強いるということの是非について、もっと考えるべきだと思う。