カルテ
医者は患者に対して、どのような治療を施したのかについて客観的な記録を残しておかねばならないと定められている。この義務を怠ると50万円以下の罰金を科せられることになっている。具体的な内容としては、①診療を受けた者の住所・氏名・年齢・性別 ②病名・主要症状 ③治療方法(処方と処置)④診療年月日 ⑤既往症・原因・経過 ⑥保険者番号 ⑦被保険者証の記号・番号・有効期限 ⑧保険者の名称・所在地 ⑨診療点数 となっているが、重要なのは、これらをただ機械的に書けばいいというものではないということだ。
カルテ(正式には「診療録」)とは、客観的な事柄を記録として残しておくための文書であり、よって、誰が見ても読み取れるよう、記載者にしかわからないような略語や略字は使用できないことになっている。また、責任所在を明らかにするため、記載者と記載年月日&時刻も記載しなければならない。もしもカルテの写しを入手する機会があったら、是非ともこれらの項目が判読しやすく記載されているかどうかをチェックしてみて欲しい。
もうひとつ知っておいて欲しいことがある。それは、患者から請求された場合、医者には、正当な理由がない限り、診断書を作成して交付する義務があるということ。ちなみに、正当な理由とは、患者以外から請求されて患者のプライバシーが侵害される恐れがある場合、未告知のがん患者の場合、保険金詐欺等に悪用されることを医師が知った場合 である。
●普通の医者 必要なことが漏れていたり、どうでもいいことが書かれていたりすることはあるが、まぁ何となく時系列的には記録が残っている。その病医院独特の略語等が使われていたり、誤字脱字が散見されたりするのはまぁご愛嬌か。カルテの写しが欲しいと申し出ると、一瞬たじろぐも、所定の申請書を書くように言われる。が、求められたら提示せざるを得ないという社会的ルールは一応認識できている。患者本人でなくとも、委任状があって身元確認が取れれば対応してくれる。
●良い医者 治療経緯を読みやすい字できちんと記載していてくれる。別の医者にかかる場合には快くコピーを渡してくれる。頼みもしないのに、コピーを渡してくれる場合もある。治療経過が理路整然と書かれているため、次の医者は無駄な検査等を避け、スムーズに治療に入っていける。
●悪い医者 白紙同然。または事実でないことまで記載してある。あれこれ試みたという形跡を残せば収入が増えるからだが、これがバレるとペナルティが課せられる。であるからして、患者のカルテ開示請求に対しては極力回避しようとする。折衝を繰り返していくと、医師法で定められた「カルテ開示義務」や「治療経過記録義務」について無知であったりすることすらある。最終的に、2~3ヶ月を要することもある。その結果が白紙同然だったりしたら、患者は泣くに泣けない。
米国では、カルテは当然診療費を払った患者のものと認識されているが、日本では、カルテは病院のものであり、患者が勝手に覗いてはいけないという慣習が根づよく定着している感がある。よくある相談事例としては、カルテ開示を求めたら、以下のように言われ落ち込んでしまったというような話のオンパレードである。
「なぜですか?」
「何のために?」
「何か問題でもありますか?」
「目的と理由が明確でないと差し上げられません」
「うちでは、原則として開示できないことになっています」
「結果は紹介状にまとめてありますからそれでいいでしょう」
まぁ実際のやりとりでは、申し出るときの言い方とか雰囲気とかあるかとは思う。しかし、一般的な高齢者であれば、たかだか自分のカルテの写しをもらうというだけなのに、いかにハードルが高いかはわかってもらえると思う。では、どうして日本の医者は快くカルテの開示に応じてくれないのか。理由として考えられるのは…、①患者に正確な病名や病状を知らせていない場合(がん等の重篤な病気の場合)それがばれてしまう ②不必要な投薬や検査が行われているときそれがばれてしまう ③医療ミスや医療事故が隠されているときそれがばれてしまう ④カルテを渡したら患者がよその病院に逃げてしまう ⑤そもそもきちんと記録を残していない(実はこれがかなりある?) 等であろうか。
こうした医者側の都合を裏返せば、カルテを入手することによる患者の利点は、①正確な病名や病状を知ることができる ②薬漬け・検査漬けの解消 ③医療ミスや医療事故の回避・予防 ④医者や医療の選択における判断材料の確保 といった具合か。単にカルテを開示してもらうだけで、これだけ患者が主導権を握ることが可能になるのだ。いずれにしても、医療情報は患者の財産。病医院はそれを預けている銀行のようなものだ。医療機関は患者の大切な資産を保管するが、引き出しも貸し出しも自由。「良い医者」とは、医療情報の効果的運用のアドバイスをしてくれるプロであって欲しいものである。