説明(インフォームド・コンセント)

患者と医者の間には、診療契約という契約関係が成り立っている。とくに契約書を交わすことはないが、そんなこととは無関係に『診療契約』という概念が存在していることを理解しておきたい。その契約内容とは、ズバリ、医者が医療を施すことによって患者の健康を回復することである。が、医療行為には少なからず身体や生命の危険が生じる可能性も否定できないし、治療法が複数ある場合も多々あるものだ。そこで患者側には、いかなる治療を受けるべきか、自分自身で決定する権利が認められていて、これを自己決定権という。でも、通常、患者は医療についての専門知識を持っていないので、診療に当たる医者には、専門家として患者の診療状況を説明する義務が課せられている。これが説明義務だ。最近では、かっこよく「インフォームド・コンセント」と言われている。

この言葉は「説明を受けたうえの同意」と訳されるが、患者側の言い分としてはネガティブな声が大勢を占めている。私どもの調査結果で上位にくるのは、次の3点だ。①言葉が難しくてわからない。また、質問しても理解できない。結果として、頷いているしかない。②杓子定規な説明の仕方が多いように感じる。③選択肢を与えてくれない。結局は医者のやりたいように任せるしかない。

●普通の医者 患者の現在状態および見通しについて一応は何かしらの説明はする。「わかりましたか?」、「いいですか?」と杓子定規に尋ねはするが、腹の中では既に治療方針は決めてある。患者が求めれば、紙に書いて渡してくれる場合もある。
●良い医者 患者の現在状態および見通しについて、きちんとわかりやすく説明してくれる。とくに治療法については複数の選択肢を示し、それぞれの長所短所を説明し、その医者自身であればいかなる理由でどの治療法を選択するかを真摯に話してくれる。補足すれば、複数の治療法を挙げられるということは、然るべき勉強をしているということを意味する。また、患者が家に戻ってから検討できるように紙に書いてくれることもある。インフォームド・コンセントとは「説明と同意」という意味だが、良い医者はプラス「患者の選択(インフォームド・チョイス)」を尊重してくれる。
●悪い医者 患者には一切説明しない。患者が質問しても無視するか、脈絡もなく「問題ない」、「大丈夫です」と繰り返す。あるいは、「(病名)かも知れないなぁ」、「これでちょっと様子を見ましょう」などとひとりごとを呟きながら、ひとりで納得して「薬ぃ、出し説きましょうか」でジ・エンド。患者はキツネに摘まれたような感じがして、状況を紙か何かに書いて渡して欲しいと求めようものならば、「何のために?」、「いや、その必要はありません」と、まるで地球は自分が回しているとでも言いたげに突き放す。
 
医者たちの間では、患者への説明や関係そのものに対するネガティブな意見さえ聞かれてくる。しかし、考えてみれば遠いギリシャ時代、医学の始祖ヒポクラテスも言っていたではないか。「医術とは、患者の本性をよく考察した上で、今後の処置についてその根拠を示し、説明するプロセスである」と。こうしてみたときに、いま私たちのまわりに溢れている医者たちたるや、果たしてそれを実践していると評価できるものかどうか、甚だ疑問である。


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