モチベーションを高めるための脳科学的アプローチ
モチベーションとは私たちの内側から出てくる動機付け。これに対して外側から動機付けるものは「インセンティブ」という。
で、ひとつの結論。そもそも、根っからモチベーションの高い人などいやしない。つまり、モチベーションとは、人が生まれつき持っているようなものではなく、習慣やトレーニングによって身につけていくもの。
モチベーションアップのためには、TRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)という脳内ホルモンを分泌させればいい。ザッツ・オールだ。すでに脳科学の分野で実証済み。俗にヤル気ホルモンと称されるTRHは、ドーパミンやノルアドレナリンを放出させるトリガーとなって脳を覚醒・活動させる。
もう少し噛み砕いてお話する。イメージしてみて。私たちの頭蓋骨のなかは、人類の進化の順番に、内側から爬虫類脳・哺乳類脳・人間脳が重なるようにできている。それぞれ役割がある。爬虫類脳(脳幹・視床下部)は「生きるための脳」と言われ、心拍・呼吸・体温・血圧などの生命維持機能を担っている。哺乳類脳(大脳辺縁系)は「感じるための脳」と言われ、本能的な情動・行動を管轄しており、快・不快の判断などを行う。人間脳(大脳皮質)は「考えるための脳」であり、知性・知能を司っている。
重要なのは、私たちがモチベーションを持って何かに取り組むためには、これら3つの脳が緊密に連携する必要があるということ。人間脳が「この問題を処理せよ」と哺乳類脳に命令すると、哺乳類脳はそれを本能(扁桃核)と過去の記憶(海馬)から「好きか嫌いか判断する」。
ここで「好き」と結論づけられると、爬虫類脳(側坐核(通称、「欲の脳」))からヤル気ホルモンが放出される。これは全脳を覚醒させ、とくに行動計画を立案・実行させる前頭連合野を刺激。その結果、人間脳の内部では火花が散るようにニューロンが活性化し、想像と連想が絶え間なく広がっていく。
しかし、リストラの噂やいじめなどで爬虫類脳が危険を察知したり、自由に意見を言えない、適正に評価されないなどで哺乳類脳が不快を感じたりすれば、人間は自ずと逃避や保身に走ってしまうわけ。これでは何事も前向きに取り組めないのは当然。これを理解すれば、私たちのモチベーションを高めることは簡単だ。「好き」なことをすればいいのだ。一般的に私たちが好きなこととは、次の3つである。①褒められること②必要とされること③愛されること。チャンチャン、だ。
やる気になっているときというのは、他人のために一生懸命になっているとき。「自分のために」と思うと「これやるのは、また今度でいいか」と気が緩んでしまいがち。けれど他人のために何かをしているときには「やらなきゃ!」という気分になっているため、自然と体が動きはじめる。
私たちのモチベーションを上げるきっかけとなるようなものを、心理学では「ストローク」という。スキンシップ、表情・態度・仕草、言葉がある。モチベーションを上げるためには、時に自分自身に対して、時に周囲の人たちに対して積極的にストロークを投げたいものだ。