私が直接聞いた介護現場のセクハラ被害

やるせない話だが・・・。
ある会合で知り合った介護職の女性たちから、とっても残念な話を聞かされた・・・。

仕事がなくてやむなくホームヘルパーの資格を取って介護現場にデビューする。賃金は全業界平均の6割。ほとんどが非常勤採用で移動費や交通費も出ない。事業計画上にも職員の昇給なんて記載されてない。それでも、不運にも弱い状況にある要介護者たちを元気づけようと、健気に笑顔でがんばっている介護現場の職員たち。しかしそこに待ち受けているのはつらく哀しい現実だ。

私自身も病院勤務時代に、介護事業部の職員から直接相談を受けたことがある。具体的に書いてみる。
まずはちょっと読んでみてほしい。

●医療法人が運営する賃貸住宅の居室にて。訪問介護に出向いた30代のホームヘルパーが、脳梗塞の後遺症で療養中の男性(70半ば)からセクハラを受けた。布団から腕を伸ばし「上体を起こしたいから手を貸して」と言われ、手を握って引っ張ろうとしたら逆に強い力で引き寄せられ、要介護者の体の上に抱きかかえられた。そのまま抱きしめられ、下半身を撫で回されたり、頬や耳やうなじにキスをされたりした。突き放そうとしたが相手の力は想像以上に強く、足も絡められて身動きが取れなかった。その間、30秒くらいだろうか。大声を出したらやっと離れた。「何するんですか。いいがげんにしてください」とにらむと、「ははは。いや、冗談冗談」と言いながらいやらしい視線で舐めるように見つめられた。 → 報告を受け、家族に連絡。次に同様のことが起きた場合には退去いただく旨、通達した。

●同賃貸住宅にて。栄養指導に部屋を訪れた20代半ばの管理栄養士が、右半身麻痺のある要介護3の男性(60代後半)から。話している最中に「トイレに行きたい。手を貸して」と言われ、パジャマのズボンを下ろすよう求められた。「パンツも」と言われ仕方なく下ろした途端、頭を押さえつけられて顔に性器を押し付けられた。当該職員は悲鳴を上げて廊下に飛び出し、近くにいた男性ヘルパーに泣きながら助けを求めた。 → 報告を受け事実確認に出向くと、「意識が朦朧としていて覚えていない。もし本当にそんなことがあったのなら申し訳ない。本人に直接謝りたい」と申入れがあったが、当該職員は二度と対応させなかった。以降の介助はすべて男性に担当させた。
●軽度の認知症と診断された要介護2の男性(70代後半)。通院中に掃除に入った男性ヘルパーが『サービス価格表』なる画用紙を布団の下から発見。そこには『手を握る:100円、胸を触る:500円、胸をじかに触る:1,500円、ほっぺにキス:1,000円、接吻:2,000円、あそこを握る(15秒):2,500円・・・』などと記載されており、居室を訪れた看護師や介護職員にこれらを要請した可能性がある。職員に個別確認した結果、40代前半の介護士より証言が得られた。当該男性は、「君たちも薄給で大変なんだろう。ちょっとこんなの作ってみたんだけど、どれか選んでほしいなぁ」などと言ってきたという。介護士が「みんなゼロがひとつ足りないわよ」と言うと、「そうか。わかった。いくらでもやる。いいことしよう」と目を輝かせた。それを見て君が悪くなった介護士は、以降その男性とは言葉を交わさなくなった。また、職員間のブラックリストにも載せて共有した。
●通所施設の昼食後の航空ケアでのこと。奥歯に何かが挟まっていると訴えた要介護3の男性(60代後半)。口を覗き込もうとした介護実習生(20歳前後)の右手を握ると、人差し指と中指を口にこじ入れ強く吸い続けた。異変に気づいたベテランヘルパーが助けたとき、実習生はガクガクと震えていたという。中指には内出血も認められた。それほどの強い吸引力だったのだ。残念ながら、当該実習生は翌日から来なくなった。

若い女性のホームヘルパーや介護士を中心に、要介護者のセクハラに悩む人たちが後を絶たない。中には、「多少のセクハラに耐えられないようなら、はなから介護職になんて就くんじゃない」などという介護事業者のトップさえいる。被害に遭った女性職員たちには共通項がある。それは、「要介護者たちのつらい心情の表れだから、多少のことは我慢しよう」「自分のほうに隙があったのかもしれない」など、何とかして自己完結しようとSOSの声を上げない傾向だ。

また、介護事業者側にも、「何があっても職員を守るんだ」という会社としてのスタンスが明確に感じられないのも介護業界の特徴だ。「何があっても要介護者には手を上げないように」などとルールを明文化していることもままある。自分の身に危険が迫っているときに、そんな悠長なことは言っていられないではないか。

実は、二次被害というのも多い。被害者が勇気を振り絞ってセクハラ被害を訴えても、逆に被害者の落ち度をあら捜しする先輩職員や同僚たち。被害者は仲間に裏切られたような沈うつな思いで介護の世界から身を引いていくのだ。財務体質が脆弱な業界ゆえ、セクハラやクレームに組織的に対応できるだけのインフラが整っていないのである。

まともな給料もなく有給もない。おまけに性的ないやがらせをされても誰も守ってはくれない。これでは介護市場の慢性的マンバワー不足も致し方ない。一方で味をしめた要介護者たちは、今日も全国の介護現場で束の間のパラダイスを堪能しているかも・・・?
例え加害者が要介護であろうがなんだろが、「体を触られる」等の被害を受けた心身のダメージという結果がすべて。介護職員も介護事業者も、もっと毅然とした姿勢を貫いてもいいように思うのだが。

ちなみに、東京都の訪問介護契約書のガイドラインには、『著しくサービスを継続し難い背任行為があった場合、事業者はサービスを終了することができる』という一文があり、これを適用してサービス提供を終了させている事業者もある。しかし、実際的には収益が滞ってしまうサービス提供終了は最終手段として、組織としての対策をきちんと設けることだ。

っちゅうか、さっさと同性の介護職員に交代させろよ!


NPO法人 二十四の瞳
医療、介護、福祉のことを社会福祉士に相談できるNPO「二十四の瞳」
(正式名称:市民のための医療と福祉の情報公開を推進する会)
お問い合わせ 042-338-1882