“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第5回)
そしてこれを、『日常の診療活動を通して地域と信頼関係が出来上がっている医療経営者に事業主体となってもらい、想定する入居者たちのニーズの最大公約数を、地域相場の金額で提供して欲しい』のである。
その土地を知った医師が、地域の標準的な生活者の身の丈に合ったサービスを、その土地の流儀で提供していくこと。それによって、ごくごく限られた一部の富裕層だけにしか選択肢が与えられていない、現在の“終の棲家”市場環境を変革していかねばならないのだ。
今回は、「施設」と「賃貸集合住宅」というふたつの業態について、「経営の質」と「顧客満足(サービスの質)」の観点から比較しつつ総括してみたい。
病医院経営者のための“終の棲家”ビジネス成功の方程式と称して、ふたつの軸を設定して話を進めてきた。ひとつが、「経営の質=入居率×重篤度×サービス利用率」で、もうひとつが「顧客満足(サービスの質)=在宅医療×ケアマネジメント×リスクマネジメント」であった。
まず、「経営の質」について施設と賃貸集合住宅を比較すると、
①キャッシュインの観点からは、「施設が常に抱えている制度リスク」および「一般賃貸の経営の自由度と事業展開スピード」から賃貸集合住宅に軍配が上がる。わが国の超高齢化の速度を鑑みれば、一般賃貸形式の“終の棲家”がどんどん増えてこないと、最後の生活場所を確保できない高齢者が全国的に溢れてしまうだろう。
②キャッシュアウトの観点からは、「施設が強いられる固定人件費」によってやはり同様の評価となる。入居率が伸び悩んだ結果、人件費を筆頭とする高コストに汲々としている施設がいかに多いことか…。なお、あるクライアントで、80室規模の建物を計画した際に、特定施設にすべきか一般賃貸にすべきかをシミュレーションしたことがある。その結果、月々の収支予測は、「施設の場合:」、「賃貸の場合:」となったことを付記しておく。
次に、「顧客満足の質」について両者を比較すれば、何と言っても日常生活の自由度の点で議論の余地はないであろう。入居者側が施設側の運営規程やオペレーションに併せて起床したり、食事を摂ったり、入浴したりするのは、本来の生活スタイルではないはずだ。施設では外出や家族の宿泊など考えられないが、一般賃貸であれば自由である。
要するに「自宅」なわけで、何時まで寝ていようが、朝食を抜こうが、あくまでも入居者は自分のリズムで時間を過ごすことが可能である。それから、介護を中心とするサービスの質についてだが、先々週号で触れたように、両者の要員配置を比較すれば、施設ではよくて2:1、一般住宅であれば1:1。
一般賃貸の場合には、ケアプランに基づいて、当該入居者のために、当該時間に、当該職員が専任でサポートするわけだから、マンツーマンのサービスが原則なのだ。「施設」というネーミングに過度な期待を持ってしまう入居者や家族は多いものだが、実際に入ってみると、「一日じゅうテレビの前で放っておかれる」、「ナースコールを鳴らしてもなかなか来てくれない」などの不満やクレームが後を絶たない。「施設の方が安心」とは決して言えないのが実情なのである。
NPO二十四の瞳の『終の棲家事業プランニングセッション』
全5回にわたってお届けしてきた『病医院経営者のための“終の棲家”ビジネス成功の方程式』だが、予想以上に読者の関心が高いことがわかった。
私どもNPOでは、事業の構想から事業計画を策定するまでの実際のステップをご提供させていただいている。志は高いものの入居率を危惧されて躊躇される医者は多いが、そうした不安やリスクを低減しながら事業に着手するため、想定居室数の半分以上を確保してからGOする手法も紹介させていただいている。ご関心あれば、お気軽にご一報いただきたい。