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“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第4回)


今回は、入居者側の視点に立って「顧客満足(生活の質)」について解説する。医療機関による高専賃が解禁された今、今後ますます、病医院経営者のもとには、「高専賃やりましょうよ」的な甘い誘いがかけられることだろう。しかし、是非とも、自分が不動産屋ではなく医療提供者であるということを忘れないでいただきたい。

アナタの社会的役割は、いま医療や介護を利用してくれている人たちのQOLを高め、幸せな熟年生活を応援してあげること。地域で生活する多くの高齢者たちが求めているのは、絢爛豪華で高額な住空間なんかではない。

ベストなのは、日常の診療活動を通して地域のニーズを十分に把握した医療経営者が事業主体となり、ニーズの最大公約数を地域相場の金額で提供することだろう。その土地を知った人間が、身の丈に合ったサービスを、その土地の流儀で提供していく。“終の棲家”ビジネスの本質はここにある。


顧客満足の大前提となる医療&介護サービスの質
さて、“終の棲家”ビジネス成功のもうひとつの要素だが、『顧客満足=在宅医療×ケアマネジメント×リスクマネジメント』と表すことができる。

①在宅医療:私どもNPOが応援するのは不動産業ではなく医療福祉ビジネスである。従って、立派な建物の建築コストを返済するために高額な入居金を取るようなビジネスモデルは忘れて欲しい。“終の棲家”ビジネスの家賃収入はあくまで副業と認識し、住宅事業で儲けようなどとは考えないことだ。家賃は地域の相場に準ずるというのが基本的な考え方である。

最大の収益源は在宅医療と居宅介護サービスとなるが、特に在宅医療は必須である。これがなければ“終の棲家”ビジネスは成り立たない。

在宅患家50人に対して医師1名の編成を組むこと。在宅医療未経験の医師であれば、最低3ヶ月はOJTを設けること。在宅医療支援診療所であろうとなかろうと、地域連携担当スタッフやMSWが後方支援病院を確実に確保すること。在宅患家には緊急連絡用のホットラインを設置すること。これらが在宅医療の質を維持するための最低条件であろう。

②ケアマネジメント:一方で、居宅介護サービスは地域の事業者との連携もないことはない。然るべき営業活動が必要となろうが、“終の棲家”を一括借りしてもらい貴院のリスクヘッジを図れる可能性もある。が、入居者にとって理想的なのは、(既に自社で介護事業を立上げているのであれば)医療も介護も貴院グループから一括提供することが一番だ。

私が携わったケースでは、病院の組織である在宅医療部門と、グループ会社在籍のケアマネジャーおよび訪問介護部門を物理的に同じ事務所に配置することで、チームワークと情報共有の向上を絶えず意識させていた。試行錯誤の末、チームメンバーの顔が見える位置関係が不可欠であると判断した経緯がある。


③リスクマネジメント:実際に運営してみると、医療・介護・食事に次いでトランザクションが多いのは、行政手続、地域の他診療科、年金、生活資金、資産管理、遺産相続、成年後見制度、葬儀、地域の諸々のサービス提供者などについての相談と問合せである。入居者のみならず、遠方の家族からもコンタクトしてくる。長生きしなければならないがゆえのリスク管理といったところである。

これに対応するには、管理スタッフの技量が重要である。単なるパートで愛想がいいというだけでは不十分だ。少なくとも医療と福祉の専門知識を持って、ホテルのコンシェルジュ的な役割を担える人材を管理室に配置したいところだ。

私の経験では、社会福祉士や市役所OBなどであれば一定以上の評価を得られると思う。多くの場合、入居者や家族の第一窓口となるのが管理スタッフである。貴院の外来受付と同様、フロントとしての重要な位置づけであり、このサービスレベルをあげることで然るべき管理料を設定してもいいくらいだ。


成功確率をさらに高めるためのチェックポイント
さいごに、“終の棲家”ビジネスを成功させる上で見落とされがちな2点について触れておきたい。まずは、医療・介護・リスク管理支援以外の周辺サービスについては、スペシャルではなく普通を貫くこと。部屋の広さ食事も、食堂やホールや庭等の共用スペースも特別である必要はない。ほとんどの入居者は、もともとそんな豪華な家には住んでいない。今までと同等レベルで十分なわけで、このあたりを勘違いすると入居者の自己負担が嵩む結果を招いてしまう。 

もうひとつが、入居契約前に期待させすぎないこと。できないことはできないと明確に伝えること、できれば、責任を負えない想定事故について文書化して手渡すくらいが望ましい。入居者獲得を焦ってついついセールス口上になってしまうスタッフが多いが、これは危険。調子よく応じてしまうほど入居してからの満足度は下がる。

象徴的なのが、「施設」と「住宅」という言葉を比べたときに、「施設」に多大な期待を持ってしまう入居者や家族が圧倒的に多いこと。で、実際に入ってみると一日じゅう放っておかれる、医療サポートが手薄、ナースコールを鳴らしてもなかなか来てくれない、食事がまずい・・・といった不満のオンパレード。

これすべて、「施設」なのだから設備もサービスも要員配置も、一般集合住宅よりは手厚いだろうという顧客側の先入観がなせる技だ。要員配置を比較すれば、実際のところ、施設ではよくて2:1、一般住宅であれば1:1(ケアプランに基づいて、当該入居者のために、当該時間に、当該職員が専任でサポートするため)。「施設の方が安心」とは決して言えないのである。


あるべき終の棲家とは、『施設じゃないのに医療と介護が24時間ついてきて、本当に最後の最期まで暮らすことのできる賃貸集合住宅』である。

次回は、「経営の質」と「顧客満足(サービスの質)」の観点から『施設vs.賃貸集合住宅』を比較しつつ、病医院経営者のための“終の棲家”ビジネス成功の方程式を総括したい。

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