“終の棲家”ビジネス成功の方程式(第3回)
前回は、“終の棲家”ビジネスを成功させるための条件のひとつ、「経営の質」を確保するための3つの要素(入居率、重篤度、サービス利用率)についてお話した。
今回は、今後の“終の棲家”モデルとなり得る画期的な実例をお届けしようと思う。東京都葛飾区で、医療法人明正会(近藤正明理事長)が展開する高専賃ココチケアは、JR総武線「新小岩」から徒歩10分、中川にかかる平和橋のたもとで、まさに普通の街並みに溶け込んで建っていた・・・。
元教員であるトップがふつうの高齢者のために作った生活場所
同氏は、「数百万円から数千万円もする入居金を前払いで支払わせる有料老人ホームのビジネススキームがどうしても納得できなかった」と語気を強める。たしかに、入居後まもなく亡くなり入居金の返却を求めても返ってこないなどというトラブルが今でもかなりある。
また一方で、従来の有料老人ホームには入居者のプライバシーもセキュリティもあったものではないというように、生活するには決して快適な環境とは言えないところも多かった。05年に賃貸方式の高専賃が制度化されると、近藤理事長は、入居者の経済負担も少なく、一般賃貸住宅ゆえプライバシーも確保され、かつクリニックなどの併設により、医療・介護の依存度が高いひとでも安心して入居できる高齢者住宅の実現を目指して動き出したのだ。
地域貢献意欲の高い地主との出会いからうまれたサブリース方式
07年4月に開設された高専賃「ココチケア」は、下町風情の漂う都内好立地に位置するだけに建設資金などの初期投資が気にかかるところだ。その反面、家賃などは低く設定されている。
果たして採算性はどうなのか。「地主さんに約3億円で建物を建ててもらい、当社が賃借する形を取った。その建設費用などは、家賃相殺で20年償却となる計画だ。1室あたりの家賃平均は8万円。30室で240万円(入居率100%)で、入居率70%で収支がトントンになる設定」だと言う。
また、1階部分の医療スペースと9台収容できる駐車場については、株式会社ココチケアが医療法人社団明正会に地域相場の金額(約150万円)で貸しているそうだ。こうした仕組みによって、入居者の家賃を可能な限り抑えても十分経営が成り立っているわけだ。
医療介護付き高専賃こそが多くの高齢者の受け皿となる
この市場に医療機関が参入してくることの意味は大きい。人間は貧富の差なく、最終的には医療を必要とする。建物や居室や食事がいくら立派でも、医療と介護のセイフティネットがなければ話にならない。経営側の最大の関心事である収支についてもココチケアは十分に評価できるモデルである。近藤理事長の話から、医療法人が高専賃を事業化するメリットを整理してみよう。
医療法人による高専賃事業化のメリット
②院外ベッドの確保:高専賃は医療法の病床規制対象外であるため、居室数を自由に設定できる。つまり、居室が病床の代替手段となるわけだ。(ただし、介護付き老人ホームは自治体の総量規制対象で、居室数を自由に設定できない)
③地域でのブランド力アップ:ブランドとはファンの数である。高専賃で看取りまで行う姿勢を明確化することで、老い先への不安を抱える地域住民の好感度はまちがいなく上昇するはずだ。実は、これが事業の継続安定には重要。
④事業展開スピード:高専賃は行政の制度上の縛りがないため、経営の自由度や柔軟性が高い。
高専賃事業化における注意点
②入居者に対する医療介護サービスの提供効率を考え、医療機関や介護事業所と高齢者住宅は同一建物あるいは近隣に位置していることが理想。
③土地建物は所有せず、地主に建ててもらい一括借り上げを基本とする。
④入居者に施設と賃貸の違いを理解させ、過度の期待を持たせないこと。ただし、より良いサービスの追求を怠ってはならない。
⑤医療・介護の専門職以上に重要となるのが管理人。入居者や家族が日常的に頻繁に接触し、かつ緊急時に最初に接触するのが管理人である。それだけに、ホテルのコンシェルジュ的な役割が求められる。そんじょそこいらの主婦のパートで賄うようなことがあってはならない。