韓国にも引けをとる日本の医療
韓国の病医院のオペレーションは予想以上に進んでいる。韓国の主要病院は徹底したデジタルホスピタル志向でフィルムレス、ペーパーレスを実現している。
レントゲン写真、心電図などは、コンピューターによって集中管理、データベース化されている。入院記録、看護記録、カルテなども一切紙は使わない。
患者側も自宅のパソコンから自身のカルテを照会できることはもちろん、携帯電話から診療の予約をすることも可能である。日本が躓いた電子カルテの仕様まで標準化されている。ITによるネットワーク化が整備されているため、病診連携、病病連携も極めてスムーズだ。
ただし、勤務医にとって頭の痛い問題もある。「経営から人事管理まですべてIT化されているので、医師ごとの売上や患者に対する診察時間のかけ方などが記録として残ってしまう。気を抜くひまがない」というのがそれである。
つまり、個々の医師の生産性が一目瞭然になり、当然、給料の査定にも跳ね返ってくるわけである。いずれにせよ、病院のデジタル化で経営の合理化がかなり進んでいることはまちがいない。
日本と比べて病院の合理化が進んでいる理由はなんなのか。考えるほどに、韓国の国民性や国としての戦略の違いに行き着かざるを得ない。
韓国にしても、日本と同様、高齢化の到来と疾病構造の変化(感染症から生活習慣病へ)への対応が最大の課題。高齢化し、慢性的な生活習慣病が増加するなかで、急速に膨れ上がる医療費を既存システムで対応することはできない。韓国では今、どうやって利用者側の支払能力を上げるかということについて盛んに検討が行われている。日本とは大違いである。
世界一の長寿国となった日本だが、その医療制度は時代の変化に対応できていない。医療費高騰に対し、診療報酬の切り下げや病床の規制・廃止によって、「いかに医療費を下げるか」というアプローチ一辺倒だ。
韓国のように「いかに支払能力を高めるか」については何の議論もなされず、混合医療解禁にちょっとでも触れると、米国映画“シッコ”の例を持ち出して、やれ「不平等」だの「弱者切り捨て」だのと、それ以上の検討に踏み込めない。
韓国の病院の経営母体としてもっとも多いのが営利企業。患者はどこでも好きな病院に行って必要な医療サービスを手にすることができる。しかし、病院によって価格や自己負担金額は異なる。
病院側の経営努力や利用側の選択肢も考慮しながら、国からの医療財源と個人の財源(貯蓄)を視野に入れて解決策を探るという発想の転換をしない限り、わが国の医療制度改革に出口はないのではないか。遺憾ながら、国の経営も病院の経営も、韓国に学ぶべき点は多そうだ。