高齢者住宅ビジネス事情
高齢者住宅のビジネスの歴史を見ると、特養がダメなら、やれ有料老人ホームだ、特定施設だ、今度は高専賃だ・・・といった具合に、実に発想がプロダクトアウトだ。事業はハードから入っては成功確率が低い。
誤解を恐れずに言えば、どうも、マスコミ、コンサル、不動産屋、住宅屋が作ったブームに踊らされてしまって、患者さんのために何を提供すべきなのかというソフトが置き去りになっている感が否めない。
例えば、ホテルならシティホテルもあれば、私みたいにしがないビジネスマン用のビジネスホテルやカプセルホテルもある。リゾートホテルもあれば、旅館もあり、コテージやコンドミニアムもあれば貸別荘もある。
結局はトップが何をやりたいのかということであって、この業態でないと利益が出ないなんてことはない。そこを創意工夫するのが経営ということではないだろうか。
確かに時代的に旬のものというのはあるかも知れない。小売業で言えば、パパママストアから始まって、百貨店、量販店、CVS、専門店ときた。これは商品という切り口から見た業態の変遷だが、いまの時代は顧客の切り口から見た専門化が重要だろう。
要は、誰に喜ばれたいのか、誰をエンタテインするのかということ。
で、日本の都市部に必要なのは、国民年金のみに依存して生活しているシニア層向けの終の棲家である。事業の評価軸としては、『収益の最大化(経営の質)』と『顧客満足の最大化(経済負担まで含めた生活の質)』。
最終的に制度リスクを低減しようとすると、『収益の最大化(経営の質)』を実現するには、一切の縛りのない一般賃貸に行き着くのである。で、医療と介護と賃料のトリプルインカムを実現する。これは、どう転んでも医療機関にしか実現できない。
事業目的が円滑に達成できるのであれば、特養でも老健でもホームでも高専賃でも、別に、そんな名称はどうだっていい。こういった層の受け皿を増やしていくという意味では、数年前からの出回り始めた高専賃(高齢者専用賃貸住宅)は歓迎すべきかもしれない。ただ、自分の親を入れる「終の棲家」をイメージすれば、やはり、日常的な医療も、万一の場合のセイフティーネットも欠かせない。だから、医療機関のみなさんに事業主体になって欲しい。
大手住宅メーカーと話を進めていくと、『収益の最大化』では一致するのですが、『顧客満足の最大化』でつまづくことになる。つまり、顧客満足の要である、医者なり医療機関を確保したり、啓蒙したりする時間を割くことに辛抱できない。それよりも、どうしても事業展開のスピートを重視してしまうわけだ。ここが営利企業のやるせないところ。
利用者の立場から言えば、「立てたら終わり」というひとが作ったものと、「入ってもらってからもサービスを提供し続ける」ひとが作ったものと、どちらに自分の大切な親を入れたいかということ。
が、残念ながら決断する医者が少ないから、結局、立てたら終わりというひと(営利企業)が作ったものが席巻しているのがわが国の現状。たまに、よし、やろう!という医者がいても、コンサルやゼネコンは、自分たちの成果が早く挙がる特定だのホームだのグループホームだのを強硬に推奨してきた。で、勉強してない医者たちは言いなりになってしまい、もっと価値の高いモデルがあるのに変な方向に行っちゃう。
一方、『顧客満足の最大化(経済負担まで含めた生活の質)』を追求すれば、「施設じゃないのに医療と介護と食事が付いてくる・・・」そんなモデルが求められて当然だる。つまり、医療に代表される老い先のリスクを最小限にしながらも、入居される方個々の生活の自由度を尊重する。
これが実現できるのは、現在の法制度下では医者しかいない。
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