医療の原点に帰れ

 さて、診察室においては、視診・問診・触診が基本である。風邪と思しき患者さんの扱いは特に重要だ。彼らは、アナタの風邪の診察ぶりを観察しているはずだ。高視聴率の医療番組を彼らは観ていたかもしれない。

 その番組によれば、風邪の診断こそがもっとも難しい。然るべき時間をかけなければならない風邪と思しき患者さんとのやりとりこそが、かかりつけ医として相応しい医者かどうかのチェックポイントになるという。 
 ズバリ、医療の原点ともいえる3つの基本をじっくりと時間をかけてやってくれる医師が評価される時代なのだ。デジタル時代だからこそのアナログなのだ。これ、おわかりいただけるだろうか。

 
 高度先進的な検査機器ではないのだ。サービス業とは人とひとの「触れ愛」なのだ。患者さんを見るあたたかい眼差し、不安を受け止めてあげる優しく穏やかな語りかけ、アナタの手指の温もりを伝えるスキンシップ。この視診・問診・触診の過程で、アナタの人となりが患者に伝わるのだ。信頼関係が芽吹く重要不可欠なプロセスなのだ。
 
 
 極論すれば、不慣れなうちは演技でもいい。眼の前に座っている患者さんを身内の誰かだと思って、心の底から「どうしたのですか?大丈夫、いまキチンと調べて最善の方法を見つけますからね。心配しなくていいのですよ。肩の力を抜いて、ラクにして。お辛かったでしょうねぇ。もうちょっとの辛抱ですよ」。

 こう囁きながら視診・問診・触診をするのだ。3分続ければ、患者の、少なくとも心は救われる。あったかい気分になって、アナタへの信頼が確立されるだろう。例えて言えばこうだ。アナタと偏差値を比べれば雲泥の差のタレントもどきだって、ブラウン管を介して何千何万という視聴者を感動で泣かせたり笑わせたりできるのだ。
 

 要は、なりきることが大切で、嘘も10回繰り返せば本当になる。結婚詐欺師は、騙す相手に「愛してる」と繰り返すうち、本当に相手を愛せるようになるという。日野原重明さんは、冬場は白衣のポケットにホッカイロを入れている。触診するときに温かな温もりを注ぎ込むためだ。彼でさえそうなのだ。

 3分が無理なら2分でもいい。続けていくうちに、結婚詐欺師よろしく、アナタは何も知らずに頭を垂れている患者さんを愛しく思えてくるはずだ。そして、これこそが、アナタの信者を作る最短の道であることを断言する。


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